2017年2月2日木曜日

明白館の殺人

第1章・明白館
あれは五十年前の出来事でした。
私が盗賊になる前の若き日、
知人に招待されてある館に行った。
その館には初代当主が残した「競馬秘伝の書」が隠されているという噂があり、
盗賊を志していた私にとっては興味のある誘いでした。
そして、私は館で起こった連続殺人事件に巻き込まれていきます。
結果的には競馬秘伝の書を手に入れることができた。
この出来事は誰にも話したことがなく、心の中にしまっていた。
私にとっては最初の冒険といってもいいでしょう。

ー長野県の山中に館は建っている。
扉や壁や屋根もすべて白一色に統一されていて、
土地の者たちは館のことを「明白館」と呼んでいる。
明白館には魔物が住んでいるといわれ、
ここに訪ねた人間が消息不明になる事が過去に何回かあり、
一度警察が捜索したが手がかりを得られなかった。
土地の者は魔物に食われたのだと、
だから明白館には近寄るなと子供たちに注意していた。
明白館は三階建てで
一階はパーティーなどが催せる大ホールとトイレと食堂と調理場と倉庫、
二階は六畳一間の客室が10部屋あり
冷蔵庫と雀卓と将棋盤と碁盤が置かれ、
三階には当主とその家族の部屋と居間がある(スロットマシンが1台あり)。

第2章・招かれた客
2005年某月、明白館に続く山道を一台の車が走っていた。
運転席にいるのは二十歳のマクロス。
明白館当主のneoに招待されてやってきた。
マクロスとneoの接点は、
馬券老的中斎の馬券研究会の仲間であるところ。
あす、明白館では年に一度のパーティーが開かれるので多くの客がやってくる。
魔物が住むとされる明白館に足を運ぼうというのだから、
その客たちも奇人か変人の類だろうと思いきや、
実は競馬秘伝の書が目当てだったりする。
いや、それ以外に明白館に来る理由はないのだ。
競馬秘伝の書には予後不良となった馬の蘇生法や
馬券の必勝法が書かれているという。
それが手に入れば悠々自適だしノーベル賞ものだ。
やがて濃い霧を抜けた車は真っ白で眩しい明白館に到着した。
出迎えてくれたのは当主のneoと妻のシンディーローパー。
「遠いところ、よく来てくれました。中へどうぞ」
とneoが言って頭を下げた。
二階の客室の8号室に案内されたマクロスは、そこでくつろぐ。
(テレビは置いてないんだな)とマクロスは思った。
その夜、
マクロスの部屋のドアがノックされ、一人の女性が入ってきた。
「夕食の準備ができたので食堂へお越しください」
と女性は言った。
細身で色白の美しい女性だった。
「わかりました。あなた誰ですか」
とマクロスは聞いた。
「私はこの館の娘で、シンディーウーパーと申します」
と女性は優しく微笑んで答えた。

バウンドストップ=明白館初代当主。某国の商人らしいが謎も多い。
neo=明白館当主。マクロスとは競馬仲間。
シンディーウーパー=neoの娘。
ネルミ=鼠のぬいぐるみ。精霊が宿っている。
マンポ=探偵。藍色の脳細胞をもつ。

第3章・探偵の推理
つぎの日、
マクロスはパーティーが始まる前に調べものをしようと三階へ上がり
初代当主のバウンドストップの部屋のドアを開け中に入った。
そこには机と本棚とスロットマシンが置かれていて、
マクロスは机の引き出しや本棚の書物を漁った。
部屋を出て今度は居間へ向う。
居間には肖像画が飾られていた。
肖像画は男とも女ともとれる知的な顔だった。
(うん、この絵がバウンドストップなら彼は存命ではないな)
とマクロスは思った。
居間から出て別の部屋のドアに目がとまった。
表札に山下ポリデントと出ていたが
今度はドアには鍵がかけられ開かなかった。
しばらく通路を歩いていたら床に紙片が落ちていて
拾って読むと
[ズラカミファンド]
と書かれていた。
これは何だろう?と考えていたとき、
後ろから肩を叩かれ振り返った。
「マクロス君だね。私は探偵のマンポだ」
とマンポが言った。
マンポの左肩に鼠のぬいぐるみが乗っていた。
「競馬秘伝の書の在りかを教える暗号らーらーよー」
と鼠がしゃべりだした。
マクロスは驚いた。
「ははは、こいつはネルミといって精霊が宿っているんだよ」
とマンポは愉快そうに言った。
「すでに暗号は解けたよ。今夜のパーティーで謎解きといこうか」
とマンポは得意気に言い、その場を去っていった。
午後、
二階の8号室でマクロスとneoは将棋を指していた。
neoは中飛車戦法が得意のようだ。
マクロスは居飛車党なのでお互いに手がかみ合う。
「neoさん、ここは使用人はいないのですか」
「うん、昔は使用人がいて客の世話をしていたらしいがね」
「息子さんがいるそうですが」
「いや、息子は行方不明だ・・・」
その日の夜、
パーティーが始まり一階の大ホールに客が集まっており、
天才バカボンだの鉄腕アトムだのとアニメの曲が流れていた。
マクロスは何人かの客に声をかけて名前と顔を確認した。
その中に
ファレノプシスという大学の助教授や
森木乳母子という看護婦らがいた。
やがて、neoの号令でパーティーがお開きになったときだった。
「皆さん、この屋敷の宝の在りかがわかりました。ほんの少しだけ私とお付き合いください」
と声がした。
皆が声の方向を見た。
声の主は探偵のマンポだった。
「ズラカミファンドの暗号はご存知ですね。これの意味は・・・」
ズラカミ=頭髪=かつら=被りもの=電気スタンド傘。
ファンド=投資=十四(トウシ)。
マンポは説明する。
「つまり14号室の電気スタンドに宝が隠されている」
マンポは余裕の表情。
「客室は1号から10号までしかないが、当主たちの部屋も含めれば14番目の部屋がどこかにあるはず」
とマンポの推理。
「私の息子のポリデントの部屋にスタンドがある」
とneoは答えた。
マンポを始め皆が三階へ移動した。
山下ポリデントの部屋のドアをneoが開けてマンポと客たちが中に入った。
そこには、かなり年季のはいった電気スタンドが置かれていた。
「いいですか。スタンドの首がやけに太い。ここに宝が入っています」
とマンポは言い、
膝を使ってスタンドの首をへし折った。
しかし、中は空だった。
マンポの表情に焦りの色が浮かんだ。
まずい、このままでは笑い者になってしまう。
こうなれば何でもいいから掘り出さねばとマンポは必死になった。
「失礼しました。正解はスタンドの下(床)です」
とマンポは言い、
畳をひっくり返していく。
すると一冊のノートが見つかった。
「これです。競馬秘伝の書は・・・」
と言ってマンポはページをめくって読んだが、
そこに書かれていたものはパチンコの論法だった。
各機種の大当たり確率とかスロットのリール外しとかいう戦術論だった。
マンポは悟った。
このノートは価値がないということを・・・
呆れた客たちは自室に引き上げていった。
一人取り残されたマンポは落胆した。
「マンポはダメポらーらーよー」
と肩に乗っているネルミが言った。
「うるせー」
とマンポは真っ赤になった。

第4章・連続殺人
パーティーが終わった次の日、
マクロスは食堂で朝食を食べていたが、
そのとき人の悲鳴が聞こえてきた。
何かあったのかと思っていると、
シンディーウーパーが血相をかえて飛び込んできた。
「3号室のファレノプシスさんが血を流して・・・」
このシンディーウーパーの言葉に
マクロスと食堂にいた客が3号室に向った。
部屋の中央でファレノプシスが仰向けで腹から血を流して倒れていた。
「すでに死んでいるな」
マンポが脈をみて言う。
「どうやら密室だったようですね」
とマクロスは辺りを見ながら言った。
「はい。私が来たときはドアに鍵がかかっていました」
シンディーウーパーが説明。
「いくら呼んでも返事がないので不審に思い、合いかぎで開けたら倒れていたのです」
シンディーウーパーは震えながら言った。
「これは殺人だ。警察を呼びたまえ」
とマンポは状況を判断して言った。
間もなく警察が到着して館の捜索がはじまった。
すると10号室でも異変が起こっていた。
そこで看護婦の森木乳母子が死んでいた。
当主や客たちは居間に集められ、
刑事の職務質問を受けた。
マクロスは、刑事の顔が肖像画に似ていると感じた。
いや、肖像画はもっと若い。
刑事はもうすぐ定年退職する初老の男だ。
職務質問が終わり、客たちは帰宅を許され館から出て行った。

第5章・謎の刑事
殺人があった翌日。
マクロスは館に残っていた。
このまま手ぶらでは帰りたくない。
マクロスは今までの事を整理して考えていた。
初代当主のバウンドストップの部屋を調べていたら名簿が出てきて、
その欄にファレノプシスと森木乳母子の名があったのを思いだす。
「わかったぞ、暗号の意味が」
とマクロスは呟いた。
マクロスはシンディーウーパーを連れて
森木乳母子の二階の10号室へやってきた。
天井板の端に白いものがはみ出ていた。
シンディーウーパーは1階の倉庫からハシゴと懐中電灯をもってきてくれた。
マクロスはハシゴで上ると白いものが木工用のボンドであることを確認した。
まだ完全に乾いていないようだ。
マイナスドライバーを天井板のふちに差し入れ、板をこじ開けた。
するとそこには空間が広がっていた。
「なるほど。この屋敷は外観は三階建てですが、内部は4階になっている。つまり、この空間の下が二階客室の天井で、上が三階の床なのです」
とマクロスは説明して、
空間の中へ足を踏み入れた。
そこは1.5メートルほどの高さで、歩を進めていたら
「ひえっ」
と驚き凍りついた。
何体かの人の骨が横たわっていた。
そのとき前方から何者かが近づいてきた。
そいつは刑事の内戸博幸だった。
「三階のバウンドストップの部屋にスロットマシーンがあるだろ。それをどかしたら、床がスライド式の扉になっていてね・・・」
と内戸は声をかけた。
「左端の骨は行方不明だった山下ポリデント、他の骨は過去に屋敷に訪れて消息不明になっている客のものだ」
と内戸は言った。
え?、なぜこの刑事は真相を知っているのだろうか。
マクロスは疑問だった。
「いま調べたら、ここから3号室には行けないようだ。犯人はシンディーウーパーだろう。鍵を持っている彼女なら簡単に密室を作れる」
と内戸は言った。
「ファレノプシスという大学の助教授は存在しない。彼は一介の労務者だ。看護婦の森木乳母子とは男女の関係だった。おそらく、二人は屋敷の宝を盗むため使用人となった。それを山下ポリデントに咎められて殺害し死体をここへ隠した」
と内戸は続けて言った。

第6章・暗号の意味
マクロスは空間を出て10号室へ戻った。
そしてシンディーウーパーと居間へ向った。
「暗号は解けますか」
とシンディーウーパーは聞いた。
「ええ、マンポさんの推理は間違っていませんよ」
とマクロスは答えた。
「ファンドが14なのはいい。ただ・・・」
ズラ=顔
カミ=紙
「で、これは肖像画を指しています」
マクロスは目の前にある肖像画を外して、壁を拳で突いた。
マクロスは武道の心得があり、正拳突きというやつだ。
すると壁が崩れて金庫が現れた。
この金庫には鍵穴がない。
ただ扉に10桁の数字が刻印されたボタンが付いているのみ。
マクロスは1と4のボタンを押し取っ手を引いた。
金庫が開いて中から一冊の書物を取り出した。
表紙に競馬秘伝と書かれていた。
内容は「アカサタナ作戦」というサイン読みの競馬予想法だ。
「まあ、初歩的な内容で宝というには大袈裟だ。これをめぐって殺人が起こるなんて馬鹿らしい。それと暗号にはもうひとつ意味があります」
バウ(ンド)
ファ(ンド)
「それで」
バウ=森木乳母(ウバ)子
ファ=(ファ)レノプシス
「こうなる」
二人の名前で、シンディーウーパーの表情が変わった。
「二人に殺された兄の復讐ですか・・・ご安心ください。ボクは警察ではないので、あなたを問い詰めることはしませんよ。さて、そろそろ帰ります。お世話になりました」
マクロスは居間を出て通路を歩いた。
そして鉄扉の前で止まった。
他の部屋のドアと違い、外から施錠する形の扉だ。
施錠をはずして扉をあけた。
中はコンクリート壁で小さい窓に鉄格子がはめられ中央にベッドが置かれていた。
おや、ここは以前にボクが拉致された部屋に似ている。
初めてこの館に来たとき懐かしい気がしたのはこのためか・・・
馬券老的中斎とバウンドストップとは何か関係があるのだろうか。
マクロスは車に乗り、明白館を後にした。
ー完

あとがき
いま思うと、館には本当に魔物がいたのかもしれません。
私は館にいるときは不思議な感覚をおぼえた。
初代当主のバウンドストップ、
そして内戸という刑事の存在。
バウンド=玉
ストップ=打ち止め=内戸(ウチド)
玉は「パチンコ」であり、打ち止めは「台」です。
果たしてバウンドストップと内戸は同一人物だったのか・・・
私は館から戦利品を頂戴していました。
それはスロットマシーンです。
機種はアラジン。
アラジンチャンスというリールのすべりが特徴です。
私の数ある出来事の中でも、謎が残った冒険でした。
真相は初代当主のみが知るところでしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿