2017年3月6日月曜日

古道を歩むギャンブラー

静岡競輪場のファンの中に、
ある二人の男女がいた。
「靖人さん、あれ見て」
「けい子、どうした?」
「富士山から煙りが上がっているわ」
「心配するな。煙りぐらいじゃ競輪は中止にならない」
「それもそうね」

煙りが上がってから16時間後、
富士山が噴火した。
最初(1回目)の噴火である。
二人の男女はある選択(岐路)を迫られる。
靖人の家の電話が鳴った。
けい子からだった。
「靖人さん、火山灰が降り続けているわ。どうしましょう」
「俺は家を出て神奈川県に逃げる。けい子はどうする」
「お腹に子どもがいるし遠出はできない。噴火が収まるまで家にいるわ」
「そうか。幸運を祈る」
靖人は受話器を置くと、身支度も早々に家を発った。

1時間後、2回目の噴火が起こる。
積もった火山灰の重みで、建物が倒壊し始める。
けい子は家を出て、地下街へと向かった。
地下街に着くと、大勢の人が避難していた。
宝飾品を身に付けている人、
子供を連れた人、
金品を抱えた人、
様々だった。
けい子も、家の金品をかき集めてから来た。
ここなら倒壊の心配はない。
あとは、噴火が収まるのを待つだけである。
しかし、最初の噴火から6時間後に運命は訪れた。
最後(6回目)の大噴火が発生。
高温(500度)の火砕流が
時速100キロのスピードで流れ出た。
わずか数分で、静岡県全土が埋めつくされた。
火砕流が含む火山ガスにより、
地下街の人も死に絶えた。

1ヶ月後、
靖人は小田原競輪場へ来ていた。
火山灰の影響で平塚競輪が開催延期する中、
なぜか小田原競輪は三日間の開催を強行した。
三日目の決勝戦、
A級、S級ともに静岡県の選手が乗っていた。
A級の決勝戦、
「うん、静岡の6番が優勝したら大穴だな。車単で流すか」
靖人は車券売り場へ向かった。
結果は6番が1着に入り、
車単の配当は100倍を超えた。
S級の決勝戦、
「赤の3番車か。しかも俺と同じ名前だ。ここでも静岡の優勝は出来すぎだろう。ここは車複で勝負しよう」
靖人はレースの行方を見守った。
3番の選手が捲くりを放ち、2着した。
車複でも高配当となった。
結局、三日間の開催は
本命(車単1番人気)は1本も出ない大荒れだった。
小田原競輪の帰り道、
負けて愚痴を言うファンの嘆きが耳に入ってきた。
靖人も別の意味で呟いていた。
(最初の噴火から6時間の猶予があったのだが、けい子の選択は間違っていないよ)
「そう、あの最後の噴火さえ無ければ・・・」
靖人は儲けた札束をポケットにしまい込み、
古道(オケラ街道)を歩き続けた。

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