2017年3月13日月曜日

怪盗と魔術師

はじめに
拍手が鳴った。
彼女は、歌えることが幸せだった。
だが、その幸せを掻き消す現実。
これまでだって、彼女は現実に立ち向かってきた。
歌手になろうと、幼少の頃から思っていた。
そして、歌手になった。
人気、実力共にトップクラス。
客席からは、歓声が響き渡った。
「素晴らしかったですよ」
舞台袖にいた男が声をかけてきた。
「これでコンサートは全て終了ですね。今回が最後ということになる」
男の言葉に、彼女はきっとなった。
「勝手に決めないで下さい」
「ご安心なさい。あなたの時間は、まだ残されています」
男に言われ、彼女は押し黙った。
「よろしい。あなたはそのほうが似合っている。あの方だってファンなのだから」
男は、にやりと笑った。
「あの方は、あなたと一緒に暮らせることを待ち遠しく思っています」
彼女には、どうしようもなかった。
もう終わりなの?
もう、私は歌えないの・・・。
「私はこれにて。本日はお疲れ様でした」
男はそう言うと、その場を立ち去った。
彼女は、しばらく、その場に佇んでいた。

1.仲間の集結

盗賊ギルドのラウンジにて、
マクロスは新聞を眺めている。
彼の盗賊仲間であるプリンスが声をかけてきた。
エメラルドグリーンの髪に、水色の瞳。
左目の下には傷痕。
プリンスは、西に位置する大陸にあるジスロフ帝国の王子だ。
暴君である父親と、それに脅える人々に嫌気がさして家出してきた。
このエウテルペにたどり着き、盗賊として生活していくことにしたのだ。
「何だ、珍しい宝の記事でもあったのか」
プリンスはそう言いながら、向かい側の席に座った。
「プリンスは最近、何か依頼をこなしたのか」
「依頼というか、山修行だな。ギルドが推奨している訓練のひとつをこなした」
「それなら俺もやったよ。やっぱり修行はいいね」
「お前は武闘家だったよな。修行には慣れているだろう」
「プリンスだって剣士だろう」
「だけど、山ごもりなんかしたことなかったし」
「まあ、初心に返れてよかったな」
マクロスは、ある点が気になってきた。
「風さんはどうしているんだ」
「風なら、盗賊の訓練を受けているぞ」
プリンスは、問いに答えた。
1ヶ月ほど前、家出したプリンスを追ってきたのが風である。
風はプリンスの付き人だ。
家出したプリンスを連れ戻しに来たのだが
絶対に帰らないと言ったので、
風もまた盗賊になることにしたのだ。
そして、試験を受けて見事に合格した。
現在は盗賊の基礎訓練中だ。
「今じゃ、こっちの言葉も話せるようになったしな」
「来たばかりの頃は大変だったよな」
そう、風はエウテルペ語が全く話せなかったのだ。
それが短期間のうちに上達し、
今では流暢なエウテルペ語を話すようになっている。
「俺、エンエンくんを読んでないんだ」
「今日のも面白かったぞ」
プリンスは新聞を受け取ると、
4コマ漫画「エンエンくん」がある紙面を開いた。
マクロスは、何気なくラウンジの壁に目を向けた。
そこには、盗賊協会設立メンバーの写真があった。
四人の人物が写っている。
そのうちの二人を、彼は知っていた。
一人は探求者シド。
黒い髪を肩まで伸ばした漆黒の瞳を持つ男性である。
シドは世界を冒険してまわり、探険家として活躍している。
その記録を書籍として出版してもいる。
盗賊としての活動はしていない。
「こんにちは」
黒髪を腰まで伸ばした、茶色い瞳の少女がギルドに現れた。
額にはゴーグルをあしらっている。
「こんにちは、加奈様」
カウンターにいた、盗賊協会の役員のチェックメイトが挨拶する。
「どうですか、新学期は」
「先生が、そろそろ卒業を意識しろって言い出しました。来年からは中学生ですからね」
加奈はエウテルペ城下町に住む盗賊で、腕前は一流だ。
実は、彼女も盗賊協会創立メンバーのひとりである。
7歳の頃から盗賊として活動している。
つまり、盗賊協会が発足したのは5年前だ。
なぜ彼女が盗賊になったのか、その経緯は誰も知らない。
「おい、大変だ」
盗賊の一人が、ギルドの中にいた人々に向かって言った。
「どうしたんだ、一体」
別の盗賊が訊く。
「幾何学模様が入った黒い甲冑の戦士が、この盗賊ギルドを探しているっていうんだ」
「もしかしたら、盗賊を殺しにきたのか」
それを聞いたプリンスの表情が緩んだ。
「そうか。とうとう、あいつも来たのか」
プリンスは、どこか楽しそうだった。

黒い甲冑の人物は、
カウンターのチェックメイトに話しかけた。
「我がマスターはどちらにいますか」
「マスター?」
「おい、セブン」
プリンスが、席を立ち上がって声をかけた。
「マスター。やっぱりここでしたか」
甲冑のセブンは、プリンスのほうへ駆け寄った。
「お久しぶりです、マスター」
「久しぶりだな、セブン。兜を脱いだらどうだ」
セブンは、兜を脱いだ。
薄い桃色の長い髪を、ポニーテールのようにしばっている。
額には、三つの球体が埋め込まれている。
鋭い感じの、濃い桃色の瞳。
「はじめまして。マスターの護衛を務めているセブンです」
セブンはロボットである。が、人間に近い感情を持っている。
「マスター。やはり、お帰りにはならないのですね」
「俺は、このエウテルペで盗賊になったんだ。よく覚えておけよセブン」
プリンスの父は、禁断の遺伝子工学によって
怪生物のセブンを生み出した。
「ロボットの研究なら、竹原博士もしているな」
マクロスが言った。
エウテルペ城に住む天才科学者、ヴィヴァルディ竹原である。
マクロスの戦闘服を改良したり、
盗賊活動用の便利な道具を開発したりしている人物である。
「親父は人間に限りなく近い怪生物を生み出すことに成功した。それがコールドと呼ばれ
るロボットなんだ」
プリンスは話し始めた。
「コールドは、その性質も人間とよく似ていたのでジスロフ帝国内では絶賛された。だが
、親父はコールドがうとましく思えてきた。人間と同じく自我があったからだ。コールド
は親父の命令を聞かなかったこともあったという。とうとう、コールドは親父のもとを離
れると言い出した。親父はコールドを幽閉しようとした。するとコールドが親父に刃向か
った。親父はコールドを処分してしまった。親父はコールドをもとに、自我のないロボッ
トを作ることにした。その新しい型がコールドシリーズ第7号機のSeven of Co
lds、通称セブンというわけさ」
マクロスは、これで納得がいった。
「コールドに会ったことがあるのか」
「いや、コールドは俺が生まれる前の話なんだよ」
「セブンさんには感情があるみたいだな」
マクロスは、確かめるように訊いた。
「はい。ジスロフ王は自我のあるロボットを好みません。私もコールドと同じく処分され
てしまう可能性があります。私はマスターにかこつけて、ここまで逃げて来たのです」
「うん。ここなら安心して暮らせますよ」
「マクロスの言うとおりだ。親父といえどもこのエウテルペには手出しできないだろう」
「おや、セブンもここに来たのですか」
「風、久しぶりですね」
薄い黄緑色の髪に、細い目の青年がやってきた。
腰には短剣がある。
プリンスの付き人である風だ。
「風さん、訓練はどうでした」
「だいぶこなせるようになりましたよ、マクロスさん」
風は、空いている席についた。
「俺一人で家出したはずが、部下まで集結するなんて・・・」
「それだけ慕われているってことだろう。プリンス」
プリンスは、マクロスの言葉に納得させられた。

2.異国の依頼

「セブンさんには、どうして感情が」
マクロスは、それが気になっていた。
コールドシリーズの初期型は、
感情があったことにより処分された。
ところが、7号機であるセブンには感情がある。
これはおかしな点だと、マクロスは思った。
「鋭いご指摘です。実は、私のもととなった怪生物コールドに感情があったから、私にも
感情があるのです。ジスロフ王は、怪生物コールドシリーズから感情のプログラムを削除
することができませんでした。削除してしまうとクオリティが低下してしまうのです。コ
ールドが成功した理由は感情プログラムがあったからです。だから人間のようなロボット
ができたというわけです。ジスロフ王は、自我が現われたときにそれを自動的に削除する
プログラムを組み込みんだ。プログラムは開発途上のもので、コールドシリーズは何体か
作られ、ジスロフ王が気に入らなかったものは処分されました。そして、私が完成しまし
た。ジスロフ王は、私をマスターの護衛に任命しました。最初のうちは自我が現われたと
きに削除プログラムが発動したのですが、マスターと関わるうちに自我が現われる回数が
増えてきた。マスターは、私の削除プログラムを外しました。そのほうが、私にとって良
いことだと判断されたのです。こうして、私は感情のあるロボットになった。怪生物コー
ルドに近い存在となりました」
セブンは、丁寧に説明した。
「ところでマクロス。セブンは、ちゃんとエウテルペ語を話せるだろう」
プリンスの指摘に、マクロスはうなずいた。
「言語のプログラムもちゃんとあるんだよ。だから言葉には苦労しないというわけさ」
しばらくして、ギルドにはいつもの空気が戻った。
セブンのことを気にする者は、誰もいない。
「セブンさんは、これからどうするんですか」
マクロスが訊いた。
「風は盗賊になったぞ」
プリンスが言った。
「では、私もそうしますよ」
セブンは言った。
「これは嬉しいことだな」
プリンスは言った。
マクロスは、どういうことかわからなかった。
「セブンは、手先が器用なんですよ。鍵の開錠とかは、すぐに覚えると思います」
風が説明してくれた。
「なるほど」
マクロスは納得した。
「よーし、そうと決まれば、早速行動に移そうぜ。セブンついて来い」
「はい、マスター」
プリンスは、セブンを連れてチェックメイトのところへ向かった。
それと入れ違いに、加奈がこちらにやってきた。
「新しい仲間て、ところですね」
加奈は、マクロスの隣に立って言った。
「ちょっと待っててよ、加奈ちゃん」
マクロスは、近くにあった使われていない椅子を持ってきた。
「ありがとう、マクロスさん」
加奈は、椅子に座った。
「加奈さん、学校は」
風が訊いた。今日は平日だ。
「実は、今日は半日で終わりだったんです」
加奈は答えた。
「風さんは、午前中からいたんですか」
「はい。午前中はずっと訓練をしていました」
風は答えた。
「マクロスさんは、午前中はどうしてたんですか」
「俺は、エウテルペ城で武術訓練をしていたよ。盗賊の訓練ばかりでなく、そっちもやら
なきゃと思って。午後になって、こっちに顔を出してたんだ。そうしたらプリンスが来て
、しばらく二人で話してたら、セブンさんも来たというわけ」
マクロスは、加奈の問いに答えた。
今は盗賊として活動しているマクロスだが、
元々は武闘家である。
父マクベスから継承した、M法という技の使い手でもある。
相手の残り体力を半分にしてしまうという技だ。
「おーい」
プリンスが、こちらに戻ってきた。
「若、セブンは大丈夫なんですか」
風が訊いた。
「これから試験だってさ。それより、依頼だぜ」
プリンスは、依頼が書かれた紙を持ってきていた。
テーブルの上に依頼書を広げた。

遺跡調査依頼
アマンダ王国はゴスペルの町の西側に位置する遺跡
ゴスペル遺跡を調査されたし
発掘品は調査者のものとしてよい
こちらは遺跡の調査内容のみを欲する
(アマンダ王国)

「アマンダ王国から」
加奈が訊いた。
「チェックメイトの話によると、アマンダの盗賊たちは依頼をやる気が全くない。んで、
エウテルペに依頼が回ってきたというわけだ」
プリンスが答えた。
「気になりますね。このゴスペル遺跡、何かあるんでしょうか」
風が、そんな疑問を口にした。
「アマンダの盗賊たちが敬遠するとは珍しいな」
プリンスは言った。
「本当に、何かあるのかもしれない」
マクロスが言った。
行きたくない、行くことができない何か。
「依頼者はアマンダ王国ということは、アマンダの王族でしょうか」
風が言う。
「でしょうね。国が出す依頼というのは王族が依頼者ということが多いですから」
加奈が言った。
「遺跡の調査依頼となると、一人で行くというわけじゃないよな」
マクロスが言った。
「そういうことになるな。マクロス、組まないか」
プリンスが誘った。
プリンスは依頼に興味をもったようだ。
「誰も受けないなら、やるか」
マクロスは承諾した。
「よし決まりだな。 風、お前はどうする」
「もちろん行きますよ、若」
風は即答した。
「お前ならそう言ってくれると思ったよ。加奈は無理か」
「そうですね。私も行きたいんですけれど、しばらくここを離れなければならないでしょ
う。遺跡調査となると一日で終わるものじゃないし」
「だよな。行くとなれば、学校を休まなきゃいけないよな」
加奈は行かないことになるようだ。
「あとはセブンにも打診してみるか」
プリンスは言った。
1時間後。
「セブン様の結果が出ました」
チェックメイトが声をかけてきた。
マクロスたちは、皆カウンターへ移動した。
プリンスは、セブンが試験を受けた部屋へと移動した。
試験の部屋は、
敵と戦うときの対処法を見るための場所なので、
それなりの広さと複雑さを兼ね備えている。
「チェックメイトさん、ちょっと訊きたいことがあるんですが」
マクロスは、依頼書をチェックメイトに見せた。
「何でしょうか、マクロス様」
「この依頼ですが、アマンダの盗賊たちは誰も引き受けないんですよね。なぜですか」
「うーん。私にもわからないんですよ。アマンダの盗賊ギルドから、これは誰も引き受け
ないからそちらで頼むという連絡があっただけなんです」
チェックメイトは正直に答えた。
遺跡調査依頼なら、
危険な場所へ宝を盗みに行くわけではないし、
人気のある依頼である。
「私はまだ遺跡調査をしたことがないのですが、同じ遺跡調査の依頼が来ることもあるん
ですよね」
風が訊いた。
「ですね。遺跡調査は一度では完了しないです。複数回にわたって依頼が来ます」
「では、ゴスペル遺跡の調査依頼が出たのは何回目なんですか」
風の質問に、チェックメイトは少し戸惑い答えた。
「実はこれが初めてなんです」
「え」
マクロス、風、加奈は同時に声を上げた。
「ゴスペル遺跡って、最近見つかった遺跡じゃないですよね。アマンダ王国第二都市ゴス
ペルの町の西側にある遺跡だと習いました。教科書に出ているくらいだから、すでに見つ
かっている遺跡のはずですけれど」
加奈は訝っている。
最近発見された遺跡でもないのに、
初めて調査依頼が出たとはどういうことなのか。
「遺跡の調査依頼を出すのは、王家とは限らない。考古学者や歴史家、あるいは地質学者
といった人が出す場合が多いんだよね。加奈ちゃん」
マクロスは、加奈に確かめるように訊いた。
彼自身、遺跡調査をやったことはない。
「そうですマクロスさん。王家が依頼を出すのは、国にとってよほど重要な時です」
加奈は答えた。
「これまで、アマンダ王国の学者は、ゴスペル遺跡には目もくれなかったということか」
風が、そんな説を出した。
「なおさらヘンですよ風様。遺跡が見つかったら、ちゃんと調査をするのが常です」
チェックメイトが言った。
「では、盗賊たちの手を借りなかったとか」
風の発言に、マクロスたちは納得した。
「その可能性はありますね。盗賊でなくても調査はできます」
マクロスは言った。
「アマンダ王家が依頼してきたというのが気になるわ」
加奈が言った。
「学者たちが信用できないから、盗賊に調査依頼を出したということなんでしょうか。そ
して、アマンダの盗賊たちは学者たちに買収されていて、たとえ王家の依頼でも無視する
ようになっているため、エウテルペに依頼が回ってきたとか」
風は推測した。
ゴスペル遺跡には何かある。
盗賊には渡したくないモノがあるか。
あるいは、何者かが圧力をかけているか。
「みんな」
プリンスが、マクロスたちのところへ戻ってきた。
傍らにはセブンが控えている。
「紹介しよう。盗賊セブンだ!」
セブンが試験に合格したことがわかった。
「おめでとうございます、セブンさん」
マクロスが祝福した。
「ありがとうございます。マスターの手助けができるようにがんばります」
セブンはそう言って一礼した。
「セブン、俺からの祝いだ。早速の依頼だ」
プリンスは依頼書を受け取り、セブンに見せた。
「俺と風とマクロスは、依頼をこなすことにした。セブン、お前はどうする」
「マスターの護衛が私の役目。もちろん参ります」
セブンは即答した。
「決まりだな。チェックメイト、そういうことだから」
「承知しました、プリンス様」
チェックメイトは承諾すると、
依頼受理の作成に入った。
「チェックメイトさん、この依頼に期限はあるんですか」
マクロスは、それを確かめたかった。
「いいえ、こちらの都合で調査できます。いつまでに現地入りしなければならないという
指定もありません」
チェックメイトは答えた。
「マクロス、何か都合でもあるのか」
プリンスが訊いた。
「遺跡の調査だから、事前にいろいろ調べておいたほうがいいだろう」
「さすがマクロスさん。わかっていますね」
加奈が誉めた。
「マクロスの言うとおりだな。予備知識も必要だな。出発は一週間後だ」
「若。ちゃんと準備をしなければなりません」
「あーあ、私も行きたいな」
加奈は、羨ましそうだった。
「ひょっこり来てもいいぞ」
プリンスは言った。
「あはは」
マクロスは思っていた。
さて、ちゃんと話しておかないとな。
俺が勝手に決めたこと、あいつはなんて言うか。

3.盗賊たちの旅立ち

マクロスは、エウテルペ城に帰った。
もう夕方だった。
「お帰りなさいませ、マクロス様」
紫の髪を肩まで伸ばし、灰色の瞳を持つ男性が挨拶した。
額には、濃い青色の星型の刺青がある。
彼の名は魔王。
ダナエ王家に使えるダナエ聖戦士のひとりだ。
彼はマクロスの付き人なので、
このエウテルペに来ている。
「ただいま、魔王」
マクロスは、魔王と共に自分の部屋に向かった。
テーブルとセットになっている椅子に座らせた。
「魔王、大事な話がある」
「何でしょうか、マクロス様」
「今日、ゴスペル遺跡の調査依頼を受けた。数日ほど出かける」
魔王は、うろたえているようだった。
エウテルペ城からアマンダ王国まで、
片道で三日はかかる。
部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
マクロスは、来訪者を部屋に入れた。
エウテルペ王国第二王子エボリ・ウイング・エウテルペだった。
藍色のうねったような髪に、緑色の瞳。
腰にはパイプ銃。
「エボリ君。一体どうしたんだ」
「いえ、もう夕食の時間ですから」
エボリは、マクロスに来訪の理由を告げた。
「もうそんな時間か」
魔王は、マクロスの事をエボリに話した。
「俺はプリンスと約束してあるんだ。出発は一週間後って、そこまで決めてある」
マクロスは言った。
ダナエでは盗賊を容認していない。
そんな国の王族が、盗賊として
依頼のために城を空けるのは許されない。
父マクベスは、マクロスが盗賊になったとことを知った。
マクベスはショックを受けたようだったが、
マクロスが見つけた道を反対しなかった。
「マクベスさんに相談すればいいじゃないですか」
エボリの提案に、魔王は賛成した。
「それがいいですよ、マクロス様。マクベス様の許可がもらえれば、やりやすいです」
「そうだな。父さんの許可がもらえればアマンダに行ける。ありがとう、エボリ君」

青年は電報局へと急いだ。
青年は、早速電文を書き、至急の電報として送った。

コチラハ、ゴスペル遺跡ノ調査ヲ行ウ。
マクベス・ダナエ王子ノ意見ヲ聞キタイ。
ーMRD

マクロスは、書店へと向かった。
歴史に関する書籍が並ぶ場所へ行く。
「アマンダの遺跡」という本を見つけた。
マクロスは、この本を買うことにした。
ゴスペル町のガイドブックも併せて買う。
彼は書店を後にした。
「マクロスさん」
エボリは、声をかけた。
エウテルペ城はくつろぎの間にて、
マクロスは買ってきた本を読んでいた。
「あら、エボリ。ここにいたの」
オクタビアンが、この部屋に入ってきた。
肩まで伸びた茶色の髪を、ひとつに結っている。
茶色い左目の瞳。右目には黒い眼帯がある。
オクタビアンはエウテルペ王国の女王。
彼女の息子であるエボリが
「マクロスさんが、ゴスペル遺跡に関する本を買ってきたんだ」
「ゴスペル遺跡?」
オクタビアンは、
マクベスと従姉弟であるメフィスト・カカオマスと共に
留学中に世界のいろいろな場所を見てきた。
「母さん、ゴスペル遺跡について何か知らない」
エボリは訊いた。
「少しなら知っているわ。だけど、どうしてゴスペル遺跡のことを」
「実は、マクロスさんがゴスペル遺跡の調査を引き受けたんだってさ。実際に依頼を引き
受けたのはプリンスで、マクロスさんは、プリンスに誘われたからそれに乗ったんだ」
エボリは説明した。
「オクタビアン様、今回、盗賊ギルドにゴスペル遺跡の調査依頼が出たのは初めてなんで
す。これまで、学者か誰かが遺跡調査をしたことはあるんですか」
「まあ、そうだったの。私が世界探索をしていたときに、ゴスペル遺跡に立ち寄ったけど
、ちゃんと調査がされていたわよ」
「そうですよね。調査がなければ教科書に掲載されることもないだろうし。だけど、エウ
テルペに調査依頼が回ってきたのは、アマンダで引き受ける盗賊がいなかったからです」
「そういえば、母さん」
エボリは、あることを思い出した。
「ゴスペル遺跡って、ある時を期に誰も立ち寄らなくなったっていう話をガラテアから聞
いたことがあるんだけど」
「え、それほんと」
マクロスは、エボリの発言に興味をもった。
「私も思い出したわ。私が女王になってから何年か経った後の話だったわね。それまでは
学者たちが熱心に調査をしていたけれど、なぜか突然、調査が打ち切りになったって」
オクタビアンが言った。
「やはり、何かあるってことか」
マクロスは、気になった。
ギルドに初めて依頼がきたのは納得だ。
盗賊協会発足前に調査が打ち切りになったら、
依頼がないのは当たり前だ。
王家が依頼を出してきたのも納得がいく。
国を代表する遺跡だから、その調査をする。
だが、アマンダの盗賊が依頼を受けなかった理由は。
やはり、学者に買収されたのか。
マクロスの頭に、風の考えがよぎる。
「なんだか面白いことになってきたな。調べたらすごいことにつながるかも」
エボリが言った。
「マクロスさんが行けなかったら、俺が代わりに行きましょうか」
「いや、エボリ君は盗賊じゃないからね」
エボリは、探偵である。
彼が中心となって活動をしているエウテルペ探偵団は、
ダナエやアマンダでも有名だ。
「マクロス君、やっぱり行く気なのね」
オクタビアンが言った。
「さすがね。昔のマクベスをみているみたい」
オクタビアンの言葉から、エボリは推測した。
「じゃあ、マクベスさんは、思ったらすぐに行動するってこと。誰にも相談せずに」
「ええ、マクベスの無鉄砲な行動に、メフィストはどれだけ迷惑したか」
オクタビアンは、懐かしむように言った。
「なんだかわかる気がします」
マクロスは納得しているようだった。
「マクベスも承知してくれるといいわね」
「本も買って、行けないってことになったら嫌ですよね」
オクタビアンとエボリの言葉に、マクロスはうなずいた。
翌日、
マクロスはアマンダの遺跡の本を読んでいた。
ゴスペル遺跡がいつ頃できたのか、
それがわかっていないというのだ。
遺跡にある石造りの建物の風化具合から、
少なくとも三千年の歴史はあるようだ。
地上には存在しない生物の化石が見つかっていた。
本には、学者たちはある事情から
ゴスペル遺跡の調査を打ち切ったと書かれていた。
理由は書かれていない。
ドアがノックされたので、
マクロスは入るように促した。
入ってきたのは魔王だった。
「魔王か。どうしたんだ」
「電報でございます」
魔王は、電報をマクロスに差し出した。
「ありがとう」
差出人には、マクベス・ダナエとあった。
電報を読んだ。

オ前ガ引キ受ケタ依頼ヲ妨ゲルコトハナイ。
アマンダマデ二行ッテコイ。
ーMD
マクロスは、安堵の表情を浮かべた。
「魔王。父さんの許可が出た。俺はアマンダはゴスペル遺跡の調査に行く。さて、お前は
どうする」
魔王は、当然マクロスの代わりに城にいるはずだ。
だがマクロスは、魔王に選択肢を与えた。
意外にも魔王の答えは決まっていた。
「もちろん、私はマクロス様のお供をしますよ。私はマクロス様に仕える身ですから」
「本当にいいんだな。後悔しないな」
「はい」
「早速準備をするぞ。あっちに行ったら当分は戻れないからな」
出発の朝。
盗賊ギルドに、
マクロス、魔王、プリンス、風、セブンが集結した。
加奈は見送りに来ることができた。
他に、エボリとチェックメイトもいる。
「いってらっしゃい」
みんなが手を振った。
「いってきます」
マクロスたちも手を振る。
しばらく馬車の旅が続く。
馬車は、エウテルペ城側が提供してくれた。
盗賊たちの旅立ちである。

4.ゴスペルの町

暗い部屋。
そこに、一人の男がいた。
デスクとセットになっている椅子に座っている。
体格のいい男だ。
その部屋に、別の男が入ってきた。
小柄な男だ。
「どうした」
大柄な男は訊いた。
「レイ・フォルツァンドは、現在、自室にいます」
「そうか。おとなしくしているんだろうな」
「はい。まだ歌いたいと抜かすかもしれません」
「まあ、それは仕方のないことだ。レイ・フォルツァンドが歌手を引退するなど、アマン
ダの国民は誰も知らない。公表していないのだからな」
「では、いつ公表するのですか」
「決まっているだろう。この私との結婚の時だ」
「なるほど。そこで、国民にレイ・フォルツァンドの最終ステージを見せるというわけで
すね」
「そのとおりだ。引退コンサートを用意しているのだぞ。悪い話ではないだろう」
「いつ知らせるのですか」
「近日中には知らせる。レイ・フォルツァンドが私の妻になれば・・・」
大柄な男は、席を立ち上がった。
「ゴスペル遺跡は私のものだ」

プリンスは、馬車から降りた。
「ご苦労様」
マクロスは、馬車から降りると馬たちをねぎらった。
盗賊一行は、昼時にゴスペルの町に到着した。
そして、ある建物の前にやってきていた。
白い壁や屋根が印象的な建物だ。
3階建てである。
最上階の壁に、アマンダ王家の紋章が刻まれている。
建物は、アマンダ王家の別荘。
一行は、別荘を借りる許可を得ることができた。
魔王が馬車を別荘の庭に移動させ、
馬たちを厩舎に連れていく。
庭はよく手入れがされている。
いろいろな植物を鑑賞することができ、
小さな池もある。
「音楽と芸術の都と言われるだけあって、華やかな雰囲気がこの町を包んでいるな」
セブンは言った。
「じゃ、行くぞ」
マクロスが、ドアノッカーを鳴らした。
扉が開けられ、
ガラテア・アマンダ王女がでた。
薄紫の髪に桃色の瞳、白い肌。
「お待ちしていました、皆さん」
「しばらく世話になるよ、ガラテアさん」
マクロスが代表して挨拶した。
「話は父から聞いています。遺跡調査は明日にして、今日は旅の疲れを癒してください」
ガラテアは言った。
「はじめまして。ガラテア・アマンダです。アマンダ王国の王女です」
ガラテアは、プリンス、風、セブンに挨拶した。
「俺はプリンス。エウテルペ盗賊協会所属の盗賊だ。よろしくな」
プリンスは、いつもの調子で挨拶した。
「若、失礼でしょう」
風が注意する。
「構いませんよ」
ガラテアは笑って言った。
「私は風といいます。若の付き人です」
風は名乗った。
「私はセブン。マスターの護衛です」
続いて、セブンが名乗った。
「よろしくお願いします」
ガラテアは一礼した。
「では、部屋に案内します。空いているのは2階です」
「2階は全部、宿泊する部屋なんですか」
風が訊いた。
「はい。2階はお付きの人の部屋なんですよ。3階がボクの部屋です」
ガラテアが説明する。
マクロスは、兵士や女中の姿がないことに気づいた。
「ガラテアさん、もしかして一人でここに」
「そうです。一人での行動は留学で慣れていますから。ここに滞在するときは、たいてい
一人ですね」
ガラテアは答える。
彼女は、世界一のピアニストのナイト・フクラ氏のもとで、
ピアノの腕前を磨いたことがある。
彼女はアマンダ王国が誇るピアノの名手なのだ。
「すごいですね、王族なのに」
セブンが正直に言った。
「お城の人たちを連れていくと、だらけてしまいそうで。それに警備は町の人たちが行っ
てくれています。とても感謝しています」
ガラテアの言葉に、マクロスたちは感心した。
お付きの人たちの部屋には、
プリンスと風とセブンが泊まることになり、
3階にマクロスと魔王が泊まることになった。
2階は全体がひと部屋で、
高級スイートルームになっている。
「アパートの部屋よりずっと広いぜ」
プリンスは言う。
魔王は、あることに思い当たった。
「プリンスさんが住んでいるアパートに、風さんも住んでいるんですよね。そこへセブン
さんがやって来た。部屋が狭くないですか」
「うん。エウテルペに帰ったら、もっと広い部屋を探すかもしれない」
「気に入っていただけましたか」
ガラテアは訊いた。
「もちろんです。いやー、こんないい部屋に泊まれるとは」
プリンスは大喜びだ。
ガラテアは、マクロスと魔王を部屋に案内した。
3階には、ガラテアの部屋と、
アマンダ王の部屋と、
来客用の部屋とがある。
二人は来客用の部屋に泊まる。
「では、何かあったら呼んでくださいね」
「ありがとう、ガラテアさん」
ガラテアは、自室へと戻った。
「3階は地味だな」
マクロスは、アマンダ城で働く人たちが
手厚い扱いを受けていたと感じた。
マクロスたちは、昼食がまだだった。
ガラテアが料理を作ってくれた。
アマンダ王国では定番のグリーンサラダに、
ジャガイモとハムの玉ねぎ炒め、
主食はロールパンだった。
「うまいぜ」
プリンスは、素直に感想を言った。
「ありがとうございます。お口に合うかどうか心配だったんですよ」
「とてもおいしいですよ、ガラテア王女様」
風も言う。
セブンもちゃんと食べている。
人間に限りなく近いロボットなのだ。
「マスターは、風が来るまで、何を食べていたんですか」
「ほとんど外食だったな。エウテルペ城でご馳走になったこともあったし」
プリンスは、料理が下手なのだろうか。
魔王はそう勘ぐった。
「ガラテアさん、ここからゴスペル遺跡までどのくらい」
マクロスは、明日に備えて訊いた。
「町外れから西へ、馬車で30分というところですね。今は誰も近づかないから、すんな
り行けると思いますが」
「どうして誰も近づかないんだ」
プリンスが訊いた。
「この遺跡には、恐ろしいものが潜んでいるという話です。表向きの理由です」
ガラテアのこの答えに、不審なものを感じた。
「表向きの理由というと、裏は」
魔王が訊いた。
「これは噂ですが。学者たちは、調査を打ち切りたくて打ち切ったのではなく、陰で操ら
れたというのです。ゴスペル遺跡が見つかったのは今から三十年ほど前。アマンダの地質
学者が、あの場所の地層を研究しようと掘り進めていたところ、ゴスペル遺跡が見つかっ
たというわけです。遺跡のことは教科書にも掲載されるようになりました。遺跡がゴスペ
ル遺跡という名前なのは、町の名前がゴスペルだからじゃないんです。実は、今はアマン
ダ領となっているヴァージン島に古くから伝わる伝説によるものなのです。かつて、この
世界には空中に浮かぶ島があった。ところがある時、その島は地上へと落ち、そして地に
埋もれてしまったというものです。その空中に浮かぶ島の名前がゴスペルといいました。
伝説では、アマンダ王国の西側に島が落ちたとされています。この町は、その場所に近い
のでゴスペルの町とつけられました。それから、あの遺跡が見つかり、どうやらヴァージ
ン島に伝わる伝説は、ただの伝説ではないと考えられるようになりました。つまり、ゴス
ペル遺跡は本当に空中に浮かんでいたのではないかと思われるようになったのです。その
ため、アマンダにいる専門家たちや、あるいは諸外国の専門家たちが多数、ゴスペル遺跡
を訪れました。ゴスペル遺跡を調べると、これまでに見た事のないような生物の化石が見
つかりました。現代に品種改良してできた植物の化石が出てきたりもしました。なので、
さらにいろいろな考古学者や地質学者、歴史家がゴスペル遺跡を訪れるようになりました
。しかし数年前、あれだけ熱心だった学者たちが、突如研究を打ち切りました。表向きの
理由は今しがた説明しましたが、その裏では、遺跡をどうしても手に入れたいともくろむ
輩が、学者たちを買収するか、あるいは脅すかして研究を打ち切らせたと言われています
。あくまで噂ですけれど」
ガラテアの説明に、
マクロスたちは只事ではないと思った。
「ガラテア王女様のお父上が、盗賊ギルドに依頼をお出しになったのは」
「そうです、風さん。父は、ゴスペル遺跡の調査が再開されてほしいと願っているんです
。ですが、学者たちはもうあてにできません。仮に脅されているとすると、下手をすれば
学者たちの命がありませんから」
「もしかしたら、盗賊なら依頼を引き受けてくれるかもしれないと思ったんだな」
「そのとおりです、プリンスさん」
「ガラテアさん。もしかしたら知っているのか。謎の輩のことを」
マクロスは訊いてみた。
「さすがですね、マクロスさん。実は、輩には心当たりがあるんですよ。使用人たちの話
を偶然にも聞いてしまったことがあるのですが」
ガラテアは、一息ついて言った。
「使用人たちは話していました。ヒューペリオン伯爵が遺跡を欲しがっていると」
食事の後、
部屋に引き上げてから、マクロスは訊いてみた。
「そうですね。風さんがエウテルペで考えたことと似ています。学者が盗賊を買収したの
ではなく、謎の輩が学者たちやアマンダの盗賊たちを買収した、あるいは脅した。謎の輩
がヒューペリオン伯爵かどうかはわかりませんが」
魔王は、自分の考えを述べた。
「ガラテアさんが聞いた話。アマンダ城の使用人たちは何か知っているんだろうか。いつ
、どうやってそんなことを知ったんだろう」
マクロスは、少しだけ気になった。
ヒューペリオン伯爵には、
マクロスは会ったことがなかった。
魔王は、会ったことがあった。
伯爵がダナエを訪れたとき、ダナエ城に寄ったのだ。
大柄な人物だった。
「ヒューペリオン伯爵は、アマンダ王国の貴族です。アマンダ城に出入りしていても不思
議ではありませんよ」
魔王が言った。
「そうだな。本人が、遺跡が欲しいと使用人たちにこぼしたか」
マクロスはそう言って、言葉を切った。
「部下たちに話していたなら、買収計画を立てていたとか」
魔王が訊いた。
「可能性はあるな」
マクロスは、なんだか恐くなってきた。
伯爵家の使用人が外部に漏らしたとしたら、
もう消されていてもおかしくはない。
「マクロス様のお考えが正しいとすると、謎の輩はヒューペリオン伯爵で決まりですね」
「真相はまだわからないし、決め付けるのは早い気がするが。遺跡調査と同時に、ヒュー
ペリオン伯爵についても調査しなければならないな」
「マクロス様、なんだかエボリ様みたいなことを」
「魔王もそう思うか。実は俺も。盗賊なのに、探偵みたいだよな」
マクロスはそう言いながら思っていた。
この依頼。
調査だけで終わるとは思わない。
ゴスペル遺跡には何かある。

「大変です」
小柄な男が、部屋に転がり込んできた。
「どうしたんだ」
大柄な男が訊く。
「はい。依頼を引き受けた盗賊がいるという話なんです」
「何だと。この国の盗賊が依頼を引き受けるわけがないだろう。たとえ王自らの依頼だと
しても。遺跡の依頼を引き受けたらどうなるか、盗賊どもはわかっていないのか」
「実は、引き受けたのはこの国の盗賊ではないんですよ」
この言葉に、大柄な男は目を見開いた。
「どういうことだ、それは」
「依頼はエウテルペの盗賊ギルドに回されたのです。そうしたら、盗賊がこれを引き受け
ると言い出したそうです」
説明を聞いた大柄な男は、にやりと笑った。
「なるほど。エウテルペの奴らか。こちらの恐ろしさを知らなくても当然だな。で、依頼
を引き受けた盗賊の代表者は」
「はい。プリンスです」

5.調査開始

エウテルペ城下町、
盗賊協会の裏手側にある小さな屋敷の応接室。
「おや」
人間の子供くらいの大きさの
ピンク色の毛をした猫人が、
その人物の姿を目にとめて言った。
「久しぶりだね、加奈さん」
来客は加奈だった。
「本当に久しぶりね、ロビン子爵」
加奈は言った。
猫人のロビンに勧められ、加奈はソファに座った。
「あれから、もう五年か」
ロビンは言った。
「ええ。今では、多くの国にギルドができて、多くの人が盗賊になってるわ」
加奈の言葉に、ロビンはうなずいた。
「これも、オクタビアン様のおかげだ。オクタビアン様には本当に感謝している。我々の
考えを、きちんと理解してくださったのだから」
「同感ね。ところでロビン子爵は、今は盗賊として活動してるわけ」
「名簿に私の名は残っているだろう。私にできる仕事があれば引き受けるが」
「そのわりには、ギルドや協会で姿を見かけないけど」
「加奈さん、私は情報屋だ。盗賊の仕事ばかりやっているわけにはいかないよ」
「まさか、盗賊協会創立メンバーからそんな言葉が聞けるとはね」
加奈は、ため息混じりに言っていた。
ロビンは、盗賊協会創立メンバーの一人である。
マクロスが見ていた写真の猫人が彼なのだ。
ロビンは情報屋として活動しているが、
盗賊をやめたわけではない。
ロビンはしみじみとしていた。
「みんな驚いたよね、まさか7歳の少女が盗賊としての腕前を持っているなんて、誰も思
っていなかった」
ロストメモリーズとは、
伝説の盗賊団と言われている組織。
ロストメモリーズは、
盗賊協会創立メンバーで構成されている。
「ところで、用事があるんだろう」
「ええ、ゴスペル遺跡の情報を提供してもらえないかしら」
「ゴスペル遺跡ねえ。エウテルペ盗賊協会に所属している盗賊が調査依頼を引き受けたと
いう話だったね。加奈さんは引き受けていないんだろう」
「どうも引っ掛かるのよ。ゴスペル遺跡の調査依頼がこれまで一度も出ていなかったこと
が。遺跡の調査が打ち切りになったって話にプリンスさんが食いついて。なぜ打ち切りに
なったのか。調査することがなくなったから打ち切りになったとは、どうも思えないの」
「すると加奈さんは、ゴスペル遺跡の情報というより、ゴスペル遺跡に関わる人の情報が
知りたいと」
「そういうことよ。もしかしたら、誰かがゴスペル遺跡を独り占めしようとしているかも
しれないから」
「わかった。調べてみよう」

マクロスたちは、ゴスペル遺跡の調査に来ていた。
そこにはスターダンス教授の姿もあった。
「スターダンス教授、どうしてここへ」
マクロスは声をかけた。
「毎年夏になると、色々な研究グループから大学のほうに調査依頼が来るんだよ」
スターダンス教授は答える。
「日給はいくらですか」
プリンスが聞く。
「95ドルだ。そっちこそ報酬はいくらだい」
「円で10万です」
「いい仕事だな」
スターダンス教授は半分よこせと言った・・・。
「おい、こんな花、大昔にあったのか」
プリンスが、とある植物の化石を見つけた。
「つい最近、品種改良してできた花に似ているが」
「どれ。確かに似ていますね。同じものかは専門家でないとわかりませんが」
風は、プリンスから化石を受け取って言った。
「ここで見つけた化石はどうすればいいのですか」
セブンが訊いた。
「俺たちで持って帰る」
マクロスは答えた。
「ところで、俺は遺跡調査なんて初めてだぜ。王様は調査の報告書が欲しいって言ってた
よな。どう書くんだマクロス」
プリンスの言葉に、マクロスは唖然とした。
「何だよ、引き受けたのはプリンスだろう」
「ちょっと若。マクロスさんに押し付けるのはよくないですよ。報告書を書くのは私も手
伝いますから。まずはこの遺跡で発見したものを書きとめるとよいでしょう」
「そうか。お前がいて助かったよ風」
プリンスは、ほっとしたようだった。
マクロスたちは、
ゴスペル遺跡の入り口から少し奥に入った場所にいる。
遺跡は、小さな集落のような場所だった。
石造りの小さい建物がいくつかあり、
それを石の土台が支えている。
中心地には、大きな寺院のような建物がある。
これもやはり石造りだ。
「建物の石、ドルバン鋼材に似ていますよね」
マクロスの言葉に、風はうなずいた。
「そうですね。太古の昔に栄えたドルバン文明の中でも最高傑作とうたわれる、あのドル
バン鋼材。丈夫ですし、色も似ていますね」
かつて栄えた文明のひとつ、ドルバン文明。
建築の分野で、とても優れていたという。
ドルバン鋼材は、強度と耐久性を持っている。
セブンの表情が、少し険しくなった。
「どうした、セブン」
プリンスが訊いた。
「ちょっと、周囲を調べてみます」
セブンは、周囲の状況を窺い出した。
彼は、周囲の危険物や生物の反応を調べることができる。
プリンスの護衛として生み出された能力だろう。
「生体反応1。遺跡の外側。消えました・・・」
セブンは、マクロスたちの方を見て言った。
「人間が一人、遺跡の入り口のあたりにいたのですが、立ち去ったようです」
「誰かが、俺たちを監視しているってことか」
プリンスが、そんなことを言った。
「可能性はあるな。おそらくこの遺跡を欲しがっている奴だろう」
マクロスは、スターダンス教授も交えて、
自分と魔王が考えたことを話し始めた。

その頃、アマンダ王家の別荘の庭では。
「ラインストーン号もトリプルダブル号も、エウテルペ城の馬なんですよね」
庭に水撒きをしながら、ガラテアが訊いた。
「そうですよ。馬車本体は鉄道に乗る前に駅前の宿屋に預けましたが、馬は連れてきたん
ですよ。ゴスペル駅に着いてから、別の馬車につないでここまで来たというわけです」
馬房の掃除をしながら、魔王が答えた。
魔王は調査には同行せず、別荘に残っていた。
エウテルペ城から連れてきた馬二頭のうち、
黒鹿毛の馬がラインストーン、
青鹿毛の馬がトリプルダブル、という名前。
両方とも牡馬だ。
「慣れない馬車を引くのはどうかと、マクロス様も私も心配だったのですが、何も問題は
ありませんでした。さすが、エウテルペ城の中でも優秀な馬です」
魔王は付け加えた。
「ところで、ガラテア様」
魔王は、掃除の手を一旦止めて口を開いた。
「何でしょうか」
ガラテアは、水撒きの手を止めた。
「ヒューペリオン伯爵はどんな人ですか。私はよく覚えていないのです」
「アマンダ城の近くにある豪邸で暮らしている貴族ですが、武術をやっていたそうです。
護衛もつけずに自分の思うままに行動しているようですね。財力は貿易商によってつけた
ものです」
「すると、貿易担当というところですか」
「そうです。アマンダ王国に何人かいる貿易商の貴族です」
「ヒューペリオン伯爵とゴスペル遺跡は何か関係があるのですか」
「それはボクにもわかりませんね。ヒューペリオン伯爵は、ボクが幼少の時は今住んでい
る場所にはいなかったんです。その名前も存じ上げませんでした。ボクが留学から帰って
きてから、ヒューペリオン伯爵という名を聞くようになりました」
「ガラテア様が留学から帰ってきたのは六年前ですよね」
「はい」
魔王は、ガラテアの説明から考えた。
ガラテアが留学している間に
急激に力をつけた可能性。
「ガラテア様、どうか正確に思い出してください。ゴスペル遺跡の調査が打ち切りになっ
たのは何年前ですか」
魔王の真剣な表情に、ガラテアは応えようとした。
「留学して一年くらい経ったときに、新聞で読みました」
「すると、打ち切られたのは五年くらい前ということになりますね」
魔王は言いながら考えていた。
ヒューペリオン伯爵が力をつけた時期に、
ゴスペル遺跡の調査が打ち切られている。
だが、ヒューペリオン伯爵は
どうしてゴスペル遺跡を欲しがっているのだろう。
「ガラテア様、ヴァージン島のことは何かご存知なんですか」
「魔王さん、どうしてそんなことを」
「もしかしたらヴァージン島とゴスペル遺跡は、何らかの関係があるのではないかと」
「だったら、町の図書館に行きませんか。マクロスさんたちが帰ってくるのは夕方ですし
、ヴァージン島へ直接行くよりは、図書館で調べたほうが早いですよ」
魔王は、調査することが増えたと思った。
そして、これらの謎を解いていけば、
新たな発見がある、とも思っていた。

6.出会い

昼食後、ガラテアと魔王は図書館へきた。
かなり規模の大きい図書館である。
「エウテルペ城の敷地内にある教会図書館とは全然違いますね」
魔王は正直に言った。
「ここの図書館は、アマンダの城下町にある図書館よりも規模が大きいんです。アマンダ
王国内でいちばん大きい図書館と言われています。ゴスペル遺跡の資料や、ヴァージン島
に関する本もありますよ」
ガラテアは説明した。
魔王は、ヴァージン島について何かわかれば、
ゴスペル遺跡を狙う目的も見えてくると考えた。
「あら、ガラテア王女」
長いオレンジ色の髪をポニーテールにした、
黄緑色の瞳の女性が声をかけてきた。
「オルガンさんじゃないですか。久しぶりですね」
ガラテアは、その女性に挨拶した。
「ガラテア様、こちらは」
魔王は、
どこかで見たことがあると思っていた。
「このアマンダ王国内で活躍している歌手のオルガンさんですよ」
ガラテアは、オルガンに魔王を紹介した。
「はじめまして。ダナエ聖戦士の方にお目にかかれるなんて光栄です。ガラテア王女のご
紹介にもありましたとおり、オルガンと申します。よろしくお願いします」
オルガンは挨拶した。
「これはご丁寧に。私は魔王。ダナエ聖戦士のひとりです。どうぞよろしく」
オルガンがこちらの目的を訊いてきた。
「ところで、ガラテア王女たちはどうしてここに。ガラテア王女は別荘で静養中だって聞
きましたけど」
魔王は、オルガンの言葉に驚いた。
「気にしなくていいですよ、魔王さん。静養中と言うか休暇中です。演奏旅行でアマンダ
王国内を周っていたので、遅めの夏休みというわけなんです」
「誰が静養中って話をしたんでしょうか」
ガラテアは、気になった。
「私は、ヒューペリオン伯爵から聞いたんです。伯爵はこの町にある別荘に滞在されてい
るので」
オルガンの口から出てきた人名に、
魔王もガラテアも目を見開いた。
「ど、どうしたんですか。ガラテア王女も魔王さんも」
オルガンはびびった。
「いや、すみません。実は」
魔王は、これまでのことをオルガンに話した。
「そうだったんですか。実は、私もヘンな話を聞いたんですよ。そして、それが現実にな
るんじゃないかって思ってたところなんです」
オルガンはそう言うと、
ポケットに入っていた電報を広げて見せた。
そこには、こう書かれている。

私ハ、モウ歌エナイカモシレナイ。
望ンデイナイ結婚ヲシ、引退サセラレル。
ーREI
「レイ・フォルツァンドさんですか」
ガラテアが、電文を読んで聞いた。
「そうです。私の友人のレイさんが、結婚して引退だなんて初めて聞きました。この電報
の発信先を見ると、この町の電報局です。差出人の連絡先がヒューペリオン伯爵の別荘な
んですよ」
「レイさんが結婚させられる相手というのはヒューペリオン伯爵か」
魔王は言う。
「レイさんは、勝手に別荘に連れていかれて、偶然にもこんな話を聞いたようです」
「ちょっと待ってくださいよ、オルガンさん」
ガラテアはあることを思い出した。
「ヒューペリオン伯爵の別荘って、この町を一望できる丘に建っている館ですよね。あれ
って、前はフォルツァンド家のものだったんじゃ」
「さすがですね、ガラテア王女。その通りです。レイさんのご両親がまだ生きていた頃は
、あの館はフォルツァンド家のものでした。ヒューペリオン伯爵が館を乗っ取り、力がな
かったレイさんを追い出してしまったのです。その後、レイさんが歌手として大成功を収
めたら、自分の妻にしたいだなんて」
魔王もガラテアも深い憤りを覚えた。
「レイさんをこんな人と結婚させたくありませんね」
オルガンは友人の様子を見に、
ヒューペリオン伯爵の別荘まで行ってきた。
結局、友人には会えなかった。
「オルガンさん、情報をありがとうございました。マクロス様に報告できます」
「お役に立てて嬉しいです」
オルガンは、図書館の近くに住んでいることを告げ、
魔王とガラテアと別れた。
「フォルツァンド家もゴスペル遺跡に関わっているかもしれません。ヒューペリオン伯爵
がフォルツァンド家の館を乗っ取って自分の別荘にした後、レイさんを妻にしたいと言っ
ているのですから」
「レイさんが歌手として有名になったから妻にするというだけじゃなさそうですね」

遺跡調査組は、建物内は探索せず、
建物外の調査で引き上げることにした。
馬を操っていたマクロスが、
女性が誰かに追われている光景をみた。
馬を止めた。
「どうしたんだ」
馬車の中から、プリンスが訊く。
「おい、誰かが追われてるぞ」
マクロスは、プリンスに教えた。
プリンスも光景をみた。
「かなり大勢いる。助けてみるか」
マクロスはそう言うと、馬車から降りた。
「風、馬車を頼む」
プリンスは風に命令し、馬車を降りた。
風が手綱をとった。
「何なんだ、貴様らは」
黒装束の男たちは、
女性のもとへきた二人の男に訊いた。
マクロスもプリンスも、
黒装束の男たちが悪い奴らだと直感した。
水色の髪に茶色い瞳の女性は、
この男たちから逃げようとしている。
「怪盗プリンスだ」
「なんだ、お前らか」
男どもは、笑った。
こいつらは俺たちを知っている。
マクロスにはそう思えた。
「レイをこっちによこせ。ヒューペリオン伯爵の怒りを買う前に」
敵の一人がこう言った。
「お前らはヒューペリオン伯爵の手の者か。ヒューペリオン伯爵がゴスペル遺跡を欲しが
っているというのは本当なのか」
プリンスが、こんなことを訊いた。
敵の表情が一変した。
「マクロス、どうやら図星みたいだぜ」
「ああ、これで、ゴスペル遺跡を狙う輩はヒューペリオン伯爵で決まりだ」
後方から馬車がやってきた。
「よし、マクロス行くぞ」
「さあ、捕まってください」
マクロスは、女性を抱えた。
風が、馬車を走らせてくる。
マクロスとプリンスは、見事に馬車に飛び乗った。
風は、黒装束の集団に馬車を突っ込ませた。
「うわ、キチガイか」
男たちは逃げ惑った。
馬車は、あっという間にこの場を去っていった。
「くそう、無茶なことしやがる」
もうすぐ、日が暮れる。

「助けていただき、ありがとうございました」
ゴスペルの町に着いた頃、女性が礼を述べた。
「どういたしまして」
プリンスが言った。
「私は、レイ・フォルツァンドといいます。この、アマンダ王国で歌手をやっています」
女性が名乗った。
「コンサートの記事を新聞で読んだことあります」
マクロスが言った。
レイは、嬉しくなったようだ。
「それは、ありがとうございます、マクロスさん」
「風です」
「セブンです」
二人も名乗った。
マクロスたちは、この町にやってきた理由を述べた。
「王様から頼まれてゴスペル遺跡の調査を」
「そうなんだよ、レイちゃん。だから王家の別荘を使わせてもらっているんだ」
「ところでレイちゃん。あいつらは」
プリンスが訊いた。
「悪い集団みたいでしたけど」
セブンも気になっていたようだ。
「ヒューペリオン伯爵の手の者です。私を連れ戻そうとしているのです。私とヒューペリ
オン伯爵を結婚させようとして」
「な、なんだって」
マクロス、プリンス、風、セブンは同時に声を上げた。
「どうしてレイちゃんはヒューペリオン伯爵と結婚しなければならなくなったんだ」
マクロスが訊いた。
「これも、ヒューペリオン伯爵がゴスペル遺跡を手に入れるためなんだって。でも、私に
は何のことだかさっぱりわからない。私の家は、今はヒューペリオン伯爵が別荘として使
っています。私はアパートで暮らし始めました。私は歌手を目指していて、たくさん勉強
しました。一人暮らしを始めた頃にデビューしました。はじめは売れなかったけど、だん
だんと軌道に乗ることができ、今の私があるというわけです。ですが1ヶ月ほど前、ヒュ
ーペリオン伯爵が突然私の元に現われ、ツアーが終わったら結婚しろと言ってきたのです
。勝手に決められ、私は歌手を引退する運びになってしまったのです」
レイの説明に、マクロスたちは怒りを覚えた。
「何て奴。ヒューペリオン伯爵は何を考えているんだ」
マクロスの口調には、怒りがこもっていた。
「どうしてレイさんに結婚したいと言ってきたのでしょうか。ヒューペリオン伯爵がゴス
ペル遺跡を手に入れるために、レイさんが必要みたいですが」
風が言った。
「それがわかれば、ゴスペル遺跡の謎が解けるかもしれない」
セブンが言った。
「ところで、レイちゃんはこれからどうするの」
マクロスの問いに、レイは即答した。
「アパートに帰るわ」
「大丈夫なのか」
プリンスが訊く。
「私が住んでいる場所は警備が厳しいところだから。アパートまで帰れば安全よ」
「じゃ、そこまで送っていくよ」
マクロスが言った。
風は、レイの案内どおりに馬車を走らせた。
綺麗な建物が見えてきた。
レイは頭を下げ、馬車を降りた。
馬車が見えなくなるまで、
マクロスたちに手を振っていた。

7.不協和音

マクロスたちは、別荘に帰ってきた。
台所からは、いい匂いがしてくる。
プリンスは、ふと思った。
「ところで、遺跡調査って、どこまで調査すれば完了になるんだ」
風もセブンも、何も言えなかった。
「リーダーの判断だろう。俺たちは、ヒューペリオン伯爵をやっつけたら調査完了ってこ
とにしようぜ」
プリンスはそう割り切っていた。
「我々が遺跡の謎を解いたら完了じゃないんですか」
セブンが言い換える。
「そう。遺跡の謎も興味あるよな」
プリンスは、なんだか楽しそうだ。
ここで、風が思い出した。
「セブン、人間の反応をキャッチしましたよね。あれは、ヒューペリオン伯爵の手の者だ
と思いますか」
「今のところは、何とも。ただ、そう考えるのが妥当ですね」
セブンは答えた。
「ほんとに、何かすごいものがありそうだな」
プリンスの言葉に、風もセブンもうなずいた。

マクロスは、調査したことを記録用紙にまとめていた。
そして、考えていた。
ゴスペル遺跡の年代を特定するのは難しいな。
ドルバン鋼材とよく似た石。
それに、近年に品種改良されてできたという植物。
ゴスペル遺跡が空中にあったという話から、
地上では考えられない開発がされていた。
では、ヒューペリオン伯爵は何が目的なのだろうか。
地上の人間が
空中のゴスペル遺跡を手に入れることは不可能。
でも、今は地上にある。
だけど遺跡が地上に落ちたのは、ずいぶんと昔。
帰り道に会った奴らの反応を見ると、
ヒューペリオン伯爵が遺跡を欲しがっているのは確かだ。
彼女、何かを握っているのだろう。
ヒューペリオン伯爵は、
どうしても彼女を自分のものにしたいらしい。
ドアがノックされたので、
マクロスはびくっとした。
「マクロス様、夕食の準備ができましたよ」
「あー、いま行く」
マクロスは、考えを中断して
部屋を出た。

「魔王、そっちは何かあったか」
夕食の席にて、マクロスが訊いた
今日の夕食は、ゴスペルの町の海岸で取れる魚
ゴスペルフィッシュのソテーと、
ガラテアお得意のグリーンサラダだった。
主食はスティックパン。
「実は」
魔王は、昼間に図書館でオルガンに会ったこと、
その時に得た情報を話した。
「じゃ、やっぱりあの話は本当だったのか」
マクロスはそう言った。
「実は、我々にも進展があったんですよ」
風が、
セブンが生体反応を確認したこと、
レイがヒューペリオン伯爵の部下に追われていたこと、
を話した。
「では、そちらはご本人に会ったのですね」
ガラテアが言った。
「ガラテア王女は、レイちゃんとは知り合いなのか」
プリンスが訊いた。
「はい。時々、コンサートに呼ばれます。観客として呼ばれることもありますし、ゲスト
として呼ばれてピアノを弾いたこともあります」
「さすがですね」
ガラテアの答えに、セブンは感嘆した。
「図書館で何かわかったのか」
マクロスは訊いた。
「それが、ゴスペル遺跡に関する書物や資料は、すべて借りられていたのです」
魔王は、どこか悔しそうに答えた。
「まさか、ヒューペリオン伯爵に」
プリンスが訊いた。
「それはわかりません。しかし一年くらい前に、ゴスペル遺跡関連のものを借りて、貸し
出し期間の延長を申請している人たちがいるというのは確かです」
魔王は答えた。
「どうやら、集団で借りていったみたいです。図書館では、一人が借りられる本は三冊ま
でと決められていますからね」
ガラテアが付け加える。
「数年前にゴスペル遺跡調査が打ち切りになったのですから、それ以降、本や資料が増え
るということは、あまり考えられませんね。打ち切りになる前に書かれた本や資料を借り
ていったのではないでしょうか」
風が、考えを述べた。
「ヒューペリオン伯爵が、ゴスペル遺跡を欲しがっているという話が流れ出したのも一年
前です。時期的には合っていますよ」
ガラテアが、風の考えに賛意を示した。
「図書館では収穫なしですか。オルガンさんの話以外は」
セブンの問いに、ガラテアは首を横に振った。
「いいえ。ゴスペル遺跡のことはわかりませんでしたが、ヴァージン島のことについては
わかりました」
「ゴスペル遺跡が空中に浮かんでいたとかいうところか」
プリンスは思い出した。
「そうです。ヴァージン島は、アマンダ王国の本土から南西に位置する場所にある小島で
す。ゴスペルの町から行くのはちょっと大変なので、南西に行った場所にある港町テリュ
ードから船に乗って行く人が多いです。テリュードがいちばんヴァージン島に近いので」
ガラテアは、図書館で集めた情報を話した。
「ヴァージン島は、今から三百年ほど前に、アマンダ王国の領土になりました。それまで
は1つの国があったのです。エーディン王国という立派な国が。そのエーディン王国は、
他国との戦争で滅びてしまいました。滅ぼした国は、現アマンダ王国の南東にあった国・
グローです。ここまでは、アマンダ王国の人なら歴史で習うことです。さて、ヴァージン
島にあったエーディン王国ですが、グローが来るまでは平和そのものでした。しかしグロ
ーが攻め入ってきたのです。こんな小さな島の何を求めるのか、人々は不思議でなりませ
んでした。ですがグローにはちゃんと目的があったのです。空中遺跡ゴスペルの封印を解
かせるという、大きな目的が。グローの王は、空中遺跡ゴスペルを欲しがっているようで
した。大昔に空中にあって、ある時を境に地上に落ちたゴスペル。それをもう一度空中に
浮かび上がらせる。それがグローの王の目的でした。王は遺跡の復活が目的ではなく、遺
跡を自分のものにしてしまうのが目的だとされています。空中遺跡ゴスペルの封印を解く
、空中に浮かび上がらせることができる者はエーディン王家の者だけだったのです。古い
書物に、ヴァージン島の人間は、その昔、空中遺跡ゴスペルに住んでいたこと、ゴスペル
が地上に落ちてから、無人島だったヴァージン島に住み着いたということ、ゴスペルの名
を隠すためエーディンと名乗ったことが、その書物には書いてあったそうです。この書物
は、戦争の最中にどこかへいってしまったようですが、私が読んだ本にその存在が書かれ
ていました。話を元に戻しましょう。エーディン王家の人々は、グローの王の目的を知る
と、断固として協力を拒みました。その間にもヴァージン島はグローの手により侵略され
ていきました。戦争は予想もしなかった終わりかたでした。実は、グローは当時のアマン
ダとも戦争をしていたのです。領土拡大のために。その裏側には、おそらくゴスペル遺跡
が欲しいというのもあったのでしょう。グローはアマンダに負けた。グローの王は、ヴァ
ージン島でエーディン王家の人々の行方を追っていたところを、アマンダの武将と援軍に
来ていたエウテルペやダナエの兵士たちに捕らえられ、死刑となりました。このおかげで
戦争は終わり、グローはアマンダと統合された。一方、エーディン王家の人たちはヴァー
ジン島にはいませんでした。楽園だった島は廃墟と化しました。こうしてヴァージン島も
アマンダ領となったのです。その後、ヴァージン島は人々の手によって復興した。戦争の
ためにヴァージン島から離れていた住民も戻ってきましたが、王家の人々だけは戻りませ
んでした。ゴスペル遺跡を狙う悪い輩が、また現れるとも限らない。そんな理由でエーデ
ィン王家の人々は姿を消したようです」
ガラテアの説明に、マクロスは耳を傾けていた。
説明が終わると、プリンスが真っ先に言った。
「じゃあ、ヒューペリオン伯爵は、その本の参考文献ともなったゴスペル遺跡に関する古
い書物を持っているかもしれないな」
「その可能性はありますね」
魔王も肯定した。
「ところで、魔王は図書館で何をやっていたんだ」
マクロスが、ツッコミを入れた。
「人聞きが悪いですね、マクロス様。私もガラテア様と一緒にヴァージン島のことについ
て調べてたんですよ。エーディン王家のことも」
「エーディン王家のことは何かわかったのか」
「かなり歴史のある王家だということがわかりました。ゴスペル遺跡が大昔に空中にあっ
て、それから地上に落ち、その後すぐにエーディン王家が始まったということになると、
ゴスペル遺跡が地上に落ちたのは相当昔のようです」
魔王は説明した。
「ゴスペル遺跡が空中に浮かんでいたとして、どうして地上に落ちたのでしょうか」
セブンが疑問点を挙げた。
「なんだか、調べるほど、新たな謎が浮かんでくるというか」
風の言葉に、一同も困った様子。
マクロスは感じていた。
グローの国王がやろうとしたこと、
ヒューペリオン伯爵がやろうとしていること、
なんだか似ているな。

翌日の早朝、
別荘の周囲が騒がしくなっていた。
マクロスは、そのざわめきで目覚めた。
魔王は、すでに起きて支度をしていた。
「おはようございます、マクロス様」
「おはよう、魔王。どうしたんだ、この騒ぎは」
「実は、私にもよくわからないのです」
部屋のドアが叩かれた。
「いいか、絶対に部屋を出るなよ、マクロス」
ドアの向こうからプリンスの声がする。
ガラテアも別荘の中で待機した。
風、セブンと共に、プリンスは外に出た。
別荘の周辺には、
黒装束をまとった集団がいた。
別荘を取り囲むようにしている。
プリンスは思った。
レイを捕らえようとしていた奴らに似ているが、
その目はうつろだった。
まるで、誰かに操られているようである。
「何なんですか、あなたたちは」
風が、叫ぶように訊いた。
集団は、誰一人としてこの問いには答えない。
「金髪の男を出せ、と言っているようです」
セブンが教えた。
「お前ら、金髪の男に何か用なのか」
プリンスは訊いてみた。
こいつらは答えない。
雰囲気は異様だ。
黒装束の集団のひとりが、
門から別荘の庭へと足を踏み入れた。
そして、プリンスに向かって
隠し持っていた棒を振り下ろした。
プリンスは、長剣を腰にあるさやから抜いた。
そして、応戦した。
棒を長剣の刃で受け止める。鈍い音がした。
男は、それに慌てた。
プリンスは、長剣を一振りした。
棒は真っ二つになった。
男は正気に戻ったのか、慌てて逃げ出した。
まだ正気に戻っていない黒装束の集団が、
一斉に門から押し寄せてきた。
「風、セブン、来るぞ」
「応戦します、若」
「お任せください、マスター」
プリンスは長剣を構え直し、
風は腰にあるさやから短剣を抜き、
セブンは持っていた金の鎖を構えた。
三人は黒装束の集団と戦った。
集団は、操られているが
戦闘能力を強化されているわけではない。
いたずらに棒を振り回しているだけである。
プリンスの長剣で棒を切られると、
即座に戦意を喪失して逃げていった。
また、風の短剣で牽制され、
セブンの鎖で棒を弾き飛ばされた奴らも
すぐに逃げ出した。
「どうやら、逃げた人は正気に戻ったみたいですね」
風は敵を倒そうとはしていない。
「風、これだけの奴らを捌けるのか」
プリンスが、風の戦い方を見て訊いた。
「こんな人数だと、こちらのほうが先にバテますよ」
セブンも言う。
「仕方ありませんね。一気にかたをつけますよ」
風とセブンは、武器をしまうと両手に力を込めた。
そして、技を放った。
野襲!
レーザー!
風の両手からは真空波が、
セブンの指先からは光の直線が、放たれた。
それら二つの攻撃は、
敵が持っている棒を切り、
あるいは弾き飛ばした。
あっという間に集団は戦闘能力を奪われ、
悲鳴を上げながら去っていった。
「ふー、意外に簡単だったな」
プリンスが言った。
「ラインストーンもトリプルダブルも無事なようですね」
風が、厩舎を見て言った。
「あとは、これをどうするかですよね」
風は、庭に散らばった棒の残骸を見て言った。
美しい庭は、棒の残骸のために台無しになっていた。
「追い払うより、片付けのほうが大変だ・・・」
プリンスは言った。
セブンは、棒の残骸を拾い始めた。
ラインストーンとトリプルダブルは、
その光景を淡々と眺めていた。

8.安らぎの時間

「セブンさんは、奴らが最初から俺を狙っているとわかったんですか」
朝食時、マクロスはそう訊いていた。
ロングスティックパンとポタージュスープ、
フルーツサラダにハムエッグのメニュー。
「やけに外が騒がしいので目覚めました。多くの生態反応があったので、窓から外の様子
を窺いました。黒装束の集団で囲まれているのを確認してから、奴らが何を言っているの
か聞くことにしました。すると金髪の男を出せと聞き取れました。急いでマスターと風を
起こして、外の様子を伝えました」
「だから、俺はマクロスに外に出るなって言ったんだ」
セブンが説明し、プリンスが付け加える。
「ヒューペリオン伯爵には、あんなにたくさんの部下がいるのでしょうか」
風が、そんな疑問点を挙げた。
集団の人数は五十人くらい。
「風も気づいただろう。昨日の奴らと違って目がうつろだった。操られている」
プリンスが言った。
「すると、ヒューペリオン伯爵には、人を操る力があると」
魔王が訊いた。
「そんな話、聞いたことがありません。操ることができる人を仲間に取り込んでいるかも
しれませんよ」
ガラテアが言った。
「いずれにしても、厄介な話だよな」
マクロスは、呟くように言った。
「ヒューペリオン伯爵は、どうして金髪の男を狙うように指示したのでしょうか。あの場
にはマスターもいたのに」
「部下が、マクロスがレイちゃんを抱えて馬車に飛び乗った状況を伯爵に報告したからだ
ろう」
セブンの疑問に、プリンスが答えた。
「気になるのは、どうして、ここがわかったのか」
ガラテアが言った。
「馬車の製造番号かも」
マクロスが言った。
遺跡調査中、セブンは生体反応を確認した。
あの時、馬車も遺跡の外にあった。
「セブンが確認した人間が、馬車のことを調べていたのかもしれないぜ」
プリンスが言った。
「考えられることですね」
ガラテアがうなずいた。
朝食後、
それぞれ自室に引き上げた。
「マクロス様、不用意に出歩かないほうがよろしいと存じます」
「わかってるよ、魔王。油断はできない」
マクロスは、魔王を安心させようとした。
「レイちゃんのことなんだが」
「どうなさるつもりなのですか」
魔王の問いに、マクロスは答えた。
「俺は、レイちゃんを自分の彼女にする。そう思ってる」
「そうすることで、伯爵からレイさんをお守りすると」
魔王は、そう感じた。
「そうだ。だが俺も、レイちゃんから歌を取り上げることになると思う」
マクロスの瞳は沈んでいた。
「・・・お母様のことをご存知ではありませんよね」
魔王が、突然そんなことを言った。
「どうして、母さんのことを」
「マクロス様、お母様も一介の踊子でした」
魔王は、
マクロスがレイと付き合うことになろうと、
結婚の話まで発展しようと、
反対する気はないようだ。
「マクベス様も、相手は自分で見つけろとおっしゃられていましたよね」
だが、マクロスは身分のことが頭にあった。
王族と歌手。
しかし、魔王の言葉には励まされた。
「ありがとう、魔王」
マクロスは、自然とそう言っていた。

その後、黒装束の集団が現れることはなかった。
ゴスペル遺跡の調査中に、
セブンが存在をキャッチすることはあった。
マクロスの動きを窺っているのだろう。
五日間、敵に動きはなかった。
遺跡調査中に、あることがわかった。
中心にある寺院の中に、大きな石碑がある。
書かれている言葉は判読できなかった。
石碑の前にある台座には、
何かをはめ込むための穴が空いている。
その何かは、想像がついた。
調査記録をつけるのは、マクロスと風だった。
プリンスは記録をまとめるのが苦手。
魔王とガラテアは、オルガンに会いに行って
レイの様子を聞いた。
「レイさん、なんとか伯爵の別荘を脱出したんですって。盗賊に助けてもらったっていう
電報をもらったけど、ガラテア王女のところにいる人たちでしょう」
「そうですオルガンさん。ところで、レイさんに会いましたか」
「はい。今のところ怪しい奴は見かけないです。レイさんのことを伯爵があきらめたとは
思えません。式の詳しい日取りはまだ決まっていないようですが、伯爵は早く式を挙げた
いみたいです」
「何か変わったことがあったら、我々のところへ連絡してください」
レイは一人でいても大丈夫なようだが、
油断はできない。
オルガンは、
レイの様子を見ることを引き受けてくれた。

遺跡調査を始めて六日後、
彼らは異例の休みをとった。
調査の時期や方法は、
依頼主から拘束されていない。
マクロスが買ったガイドブックが
役立つときがやってきたのだ。
マクロスは、一人で町を歩きまわっていた。
魔王にはいらぬ心配をさせたくなかったが、
伯爵の手下が襲ってきたら、
そのときは返り討ちにする覚悟だ。
ガイドブックに掲載されていた
オープンカフェの前を通りかかったとき、
マクロスは、レイの姿を見つけた。
「レイちゃん」
マクロスは、向かい側の椅子に座った。
レイは、マクロスに会えるとは思っていなかった。
「レイちゃん、大丈夫だった」
「ええ、大丈夫。私を連れ戻しに来る人はいないわ。オルガンさんもいてくれるし」
「ガラテアさんが、オルガンさんにレイちゃんのことを頼んでいたんだよ」
マクロスは、思い出した。
「そうだったの。一人でも大丈夫なのに」
「ご両親はどうしてるの」
「両親が生きていた頃は、お屋敷に住んでいたけど・・・でも、だから今の私がある」
「そのお屋敷て、今は伯爵が住んで・・・。レイさんも立派な家系なんだ」
「マクロス君のご両親はどうしているの」
訊かれたマクロスは、
素性を打ち明けるか迷った。
「家族は、父と妹。母さんは俺が2歳のときに死んだ」
「そうだったの。私の両親が死んだのは今から四年前。ちょうど歌手として成功しはじめ
た頃だったわ。だけど、マクロス君に比べたら・・・」
ここで、マクロスは気づいた。
両親を一度に。
なぜだ。
四年前には、すでにゴスペル遺跡調査が打ち切られている。
「レイちゃん、ご両親って、どうして亡くなったんだ」
マクロスは、
訊かなければいけない衝動にかられた。
レイはちゃんと答えてくれた。
「両親は、事故にあった。ヴァージン島に観光へ行くと言って、港町へ行きました。その
時に乗った船が転覆して、二人は帰ってきませんでした。私は歌手としての仕事があった
ために、そこへは行きませんでした。その後、ヒューペリオン伯爵がお屋敷を購入し、私
はアパートで暮らし始めました」
マクロスは、嫌な考えがよぎる。
まさか、伯爵が仕組んだ・・・。
「このままだとヒューペリオン伯爵と結婚させられてしまうかもしれない。今は大丈夫だ
けど、伯爵の部下が、また私を連れ戻しに来るわ。私は歌いたいのに」
レイは不安げな表情を見せた。
「伯爵の思い通りには、絶対にさせない」
マクロスは、真剣なまなざしでレイに言った。
「レイちゃんは、俺が守る」
レイは、マクロスの言葉が嬉しかった。
「ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しいわ」
彼の言葉が、レイにとって心強かった。
レイのその表情を見て、マクロスは嬉しくなった。
プリンスは、
マクロスとレイの様子を陰で見ていた。
突然声をかけられたプリンスは、びくっとした。
「わっ」
人物をみて、さらにびびった。
「か、加奈」
それは間違いなく加奈だった。
「何やってるんですか」
「それはこっちの台詞だ。どうして、お前がここにいるんだよ」
「遺跡調査のためです。ロビン子爵の情報で、とんでもないことがわかりました」
ロビン子爵とは、
プリンスには初めて聞く名前である。
「盗賊協会創立メンバーの写真は知っていますね。あの中に猫人がいたでしょう。あれが
ロビン子爵です」
加奈は説明した。
「そうなのか。で、どうして来れたんだ」
「学校側に事情を話したら、行ってもいいということになったんです。ちゃんと遺跡調査
をやるという条件つきで」
学校側が許可を出すとは異例だ。
加奈は重要な情報を握っているに違いない。
プリンスはそう確信した。
「ひょっこり来てもいいとは言ったが・・・」
「実は、探求者のシドさんがエウテルペの盗賊協会を訪れたんです。こちらの事情を話し
たら、ここまで連れてきてくれたんですよ。シドさんは、また旅立ちましたけど」
「探求者のシドさんは旅人だから、加奈を連れてくるのは容易だったろう。宿は」
「一泊分なら料金を持ってきましたけど、まだ決まってません」
「そうか。だったら俺たちが泊まっている宿に来い。1階に宿泊用の部屋があったはず」
「もしかして、アマンダ王家の別荘ですか」
「何だ、知ってたのか」
「チェックメイトさんのところへ、連絡が来ましたからね。プリンスさん、一体何をやっ
てたんですか」
「マクロスの様子を」
マクロスとレイは、もう店を出ていた。
レイはあるものをマクロスに見せてくれた。
手のひらに収まるくらいの、美しい赤い石。
レイは、これをいつも持ち歩いているという。
「父からもらったの。これはお守りだって。私、つらいときはこの石に念じていた。する
と、つらいことがすぐ過ぎ去るの」
「じゃあ、今回も」
マクロスは、思わずそう訊いていた。
「ええ、ちゃんと念じたわ。そうしたら、マクロス君と知り合えた」
そう答えて微笑むレイ。
マクロスはその表情を見て、どきっとした。
「今日はどうもありがとう。私の話を聞いてくれて、送ってもくれて」
「どういたしまして。それじゃ」
マクロスは、レイと別れた。
あの石の形。
どこかで見たことがあるような。

9.新生ロストメモリーズ

プリンスは、加奈と一緒にアマンダ王家の別荘へ。
「加奈、最初から別荘で世話になる気だっただろう。宿泊料も一泊分しか持ってきていな
いって言ったんだし」
「あ、ばれました」
「遺跡調査をするのに、一泊分だけというのはないだろう」
「ですね。チェックメイトさんが、私が行くことをアマンダ城側に電報で伝えたんです。
そうしたら、折り返し連絡があって、プリンスさんたちがゴスペルの町のアマンダ王家の
別荘に滞在しているから、そこで世話になれと」
「なるほど。ガラテア王女は承知しているんだな」
「私、ガラテア王女とはあまり関わったことがないんです」
「大丈夫だよ。ガラテア王女は態度のでかい俺とも打ち解けてくれた。加奈とも仲良くな
れると思うぜ」
プリンスの言葉で、加奈は気が楽になった。
その日の夕食。
加奈は、プリンスから遺跡調査の出来事を聞いていた。
「皆さん、過去にグローという国が空中遺跡ゴスペルを手に入れるためにエーディン王国
に戦争をしかけた話は覚えていますね。なぜグローが空中遺跡ゴスペルを手に入れようと
したか、その理由は知っていますか」
マクロスたちは、理由まで考えなかった。
「空中に領土を作りたかったんじゃないのか。グローが世界で唯一、空中に領土を持つ」
プリンスが、考えを述べた。
「それも考えられます。しかし、それだけではないのです。グローは、大昔に空中遺跡ゴ
スペルと地上との架け橋となっていた国なのです」
「なんだって」
マクロスとプリンスが、同時に声を上げた。
「だから、グローは空中遺跡ゴスペルを復活させようとしたのか。そうしたら、またグロ
ーが空中遺跡ゴスペルとの架け橋となり、名誉ある国になる」
マクロスは言った。
「そのことをエーディン王国側に伝えれば済む。エーディン側が反対したのか」
プリンスが訊いた。
「いいえ、話し合いは一切行われなかったそうです。プリンスさんがさっき言ったことが
、グローの王にはあったのでしょう。その当時、グローは相当落ちぶれていたようです。
空中にあったゴスペルが地上に落ち、空中への使者としての役割を失ったグロー。没落し
た国を救うには、ゴスペルを再び空中へ帰らせるという考えが国民の頭にあったようです
。他の産業で国を復興させようとは考えなかったみたいですね。国民の声を聞いたグロー
の王は、ゴスペルを空中へ帰すという決意をします。結局、欲望に負けたのです。戦争で
エーディン王家を手に入れ、空中遺跡ゴスペルを自分のものにする。そうすれば国が豊か
になると考えた」
「結局、戦争に負けた」
風は言う。
「エーディン王家は、グローの王がやろうとしていることをわかっていたのですか」
セブンが訊いた。
「ヴァージン島から脱出したことを考えると、わかっていたようですね。空中遺跡ゴスペ
ルを、欲望の塊であるグローの王に渡してはならないと思ったのではないでしょうか」
加奈は、自分の考えを説明した。
「グローはアマンダと統合され、結局は救われる道にありました。その頃には、グローに
住んでいた人たちは、ゴスペル遺跡に固執しなくなりました。それ以来、ゴスペル遺跡は
人々に忘れ去られたと言われます。空中遺跡ゴスペルは御伽噺としてのみ、話が伝わった
のです」
「三十年ほど前にゴスペル遺跡が発掘されるまで、思い出されなかったのですね」
魔王が言った。
「ボクが読んだ本も、昔の書物を参考に書かれた本だったし、やはり人々
の記憶から消えていたんですね」
ガラテアが、そんな推測をした。
「私もそう思います、ガラテア王女。しかし最近になって、その平穏が打ち破られました
。欲望の塊であるグローの王の怨念でしょうか」
加奈の言葉に、マクロスはまさかと思った。
「ヒューペリオン伯爵は、グロー王家の子孫なのか」
「マクロスさんはエボリ君と同じく、推理力がありますね」
加奈に誉められ、マクロスは悪い気はしなかった。
探偵であるエボリと比べられて
見劣りがしないと言われるのは、
少しばかり嬉しかった。
「マクロス、いつから気づいてたんだ」
プリンスが訊いた。
「ガラテアさんと魔王から、昔の話を聞かされたときだよ。グローの王がやったことと、
ヒューペリオン伯爵がやろうとしていることが、何だか似てる」
そう、似ているのだ。
グローの王とヒューペリオン伯爵がやろうとしていること。
「じゃあ、レイちゃんはエーディン王家の末裔」
魔王もプリンスも風もセブンもガラテアも、
マクロスの言葉に顔をこわばらせた。
ヒューペリオン伯爵が、レイを自分のものにしようとしている。
そして、ゴスペル遺跡を欲しがっている。
レイがエーディン王家の末裔なら、
伯爵がレイと結婚したがっているのも十分うなずける。
「ご名答です、マクロスさん。現在、歌手として大活躍のレイ・フォルツァンドさんは、
エーディン王家の末裔だったのです。ロビン子爵が、この問題を調べるのは本当に面白か
ったと言っていました。一体どうやってこのつながりを調べたのか、それは教えてくれま
せんが。まず、グロー王家ですが、死刑になったのはグローの王だけで、その子供や妻は
生き残りました。行き場を失った王家の人間は、アマンダの貴族として生きることになり
ました。このとき、姓をヒューペリオンに変えたのです。もっとも没落貴族としての生活
を余儀なくされました。現在のヒューペリオン伯爵は、グロー王家を過去の地位に近づけ
たと言っていいでしょう。つぎに、エーディン王家ですが、アマンダ王国内に亡命したと
き、またゴスペル遺跡を狙う輩に襲われるかもしれないという恐怖から、自分たちがエー
ディン王家の人間であるということを隠すことにした。ヴァージン島は戦争のために荒れ
果て、エーディン王家の力もなくなっていた。そのため、姓をフォルツァンドと名乗り、
ゴスペルの町の貴族として生活を始めたのです。国を復興させる力は残っていませんでし
たが、すぐに町の人たちと打ち解け、かなりの力を持ちました」
「全然違いますね。同じ王家なのに」
加奈の説明に対し、セブンが言った。
「フォルツァンド家は平穏でしたが、今になって遺跡を狙う輩が現われたのです。五年ほ
ど前、ヒューペリオン伯爵がゴスペル遺跡を調査している人々に圧力をかけ、遺跡調査を
打ち切りにさせた。四年前、事故に見せかけてフォルツァンド夫妻を殺害し、レイさんを
屋敷から追い出し、ゴスペル遺跡復活のためのアイテムを家捜ししたようです。そして、
レイさんがいないとゴスペル遺跡が復活しないとわかり、レイさんに求婚したのです」
加奈が説明した。
「ところで、ゴスペル遺跡を復活させるアイテムがあるみたいですが、それは何ですか」
ガラテアが加奈に訊いた。
「ロビン子爵の情報だと、それは赤い石のようです」
加奈の答えに、マクロスは思い出した。
「赤い石だって」
「マクロス様、ご存知なのですか」
魔王が訊いた。
「そうか。どこかで見た形だと思っていたが、やっぱりそうだったんだ。今日、レイちゃ
んから赤い石を見せてもらったんだ。お守りのようなものだっていうことだけど、どっか
で見た事のあるような形だと思った。あれは遺跡にある寺院の中で使うものだ」
「もしかして、石碑の穴にはまる形なのですか」
「そうです風さん。石碑の穴の形と石の形が同じだったんですよ」
「これからどうするか考えましょう。いつ伯爵が動いてもおかしくないですよ」
セブンが言った。
「失われた遺跡の記憶・・・ロストメモリーか」
プリンスは、意味ありげに言った。
「そういえば、盗賊協会創立メンバーはロストメモリーズっていうんだよな」
マクロスは、そのことを知っていた。
「今はもう解散したというか、機能してないけど」
メンバーだった加奈が言う。
「よし。伯爵がこっちのことを訊いてきたら、俺たちはこう名乗ることにしよう。ロスト
メモリーズ2」
プリンスの提案に、マクロスは目を白黒させた。
「止まった時間を動かそうとしているのは俺たちだ。打ち切りになった遺跡調査を再開し
たのは俺たちなんだ。レイちゃんの意思で、ゴスペル遺跡をどうするか決めるんだ」
興奮して言うプリンス。
レイの意思を尊重するところが、
なんだかプリンスらしかった。
「そうだな。解散した伝説の盗賊団を、俺たちでよみがえらせるって意味でも、その名前
が使えるかもな」
マクロスは言った。
「いいだろう、加奈ちゃん」
プリンスは加奈に言う。
加奈は承知した。
「決まりだ。俺、マクロス、加奈、風、セブンの五人で、ロストメモリーズ2だ」
満月が、ゴスペルの地を照らしている。

10.幻の歌声

マクロスの他にも、あの音に気づいた者がいた。
ガラテアだった。
マクロスは、小声で声をかけた。
ガラテアは、マクロスをバルコニーに誘った。
バルコニーに出た二人は、そこでセブンに会った。
「セブンさんも、聞こえたんですか」
マクロスが訊いた。
「はい。あの歌声が」
セブンは、はっきりと歌声と言った。
「やはり、あの話は本当だったんですね」
ガラテアが言った。
「実は、ゴスペルの町には、こんな話が伝わっているんです。満月の夜に遺跡から歌声が
聞こえてくるという話が」
「歌声が聞こえるのは満月の夜だけか。夜は調査団は引き上げるからな」
マクロスが言った。
「ヒューペリオン伯爵は、満月の夜の歌声を知っているのだろうか」
マクロスがこんな疑問点を挙げた。
「知っているでしょうね。ここに四年も滞在していればね」
ガラテアが言った。
「伯爵は、歌声の主も手に入れようとしている」
セブンの考えに、マクロスもうなずいた。
一体、誰が歌っているのだろうか。
そんな疑問が残った。

今日は、遺跡調査を行う。
マクロスの頭には、昨夜の歌声のことがあった。
別荘から遺跡まで、馬車で30分もあるが、
歌声は、遺跡から聞こえてきた。
「プリンスは聞かなかったのか」
マクロスは尋ねた。
プリンスは、わからないという様子だ。
「ゴスペル遺跡からの歌声だよ」
マクロスの言葉に、加奈が口を出した。
「あれは空耳じゃなかったんだわ」
「加奈さんも聞いたのですか」
セブンが訊いた。
「はい。なかなか眠れなくて、どうしようと思ってたときに、かすかな歌声が聞こえてき
たんです。それを聞いていたら眠ってしまって」
加奈は答えた。
風も魔王も、聞いていたようだ。
朝食の時。
朝早くから、この別荘を訪ねてくる者がいた。
訪ねてきたのはオルガンだった。
オルガンは、ロストメモリーズ2とは初対面だった。
「実は、伯爵の別荘で、何やら不穏な動きがあったみたいなんです」
オルガンは皆の前で言う。
「不穏な動きとは」
マクロスが訊く。
「よくはわかりません。今朝、伯爵の別荘に新聞配達に行った人が、何かの準備をしてい
たと言っていました」
オルガンは答える。
「何の準備なんだろう。まさか、レイちゃんを再び連れていく準備とか」
プリンスが、自分の考えを言った。
「マクロス様、私は、レイさんのアパート周辺で様子を見ようと思うのですが」
魔王が言った。
「そうしてくれ。俺も行きたいが、二日連続で遺跡調査を休むわけにもいかないし」
マクロスは、魔王の考えを承諾した。
「ボクも行きます。レイさんの危機を見過ごすわけにもいきません。それに、オルガンさ
んも行くつもりだったのでしょう」
ガラテアが言った。
「ありがとうございます、魔王さん、ガラテア王女」
オルガンは、嬉しそうに礼を言った。
「オルガンさん、ちょっと訊きたいことがあるのですが」
風が疑問を言う。
「何でしょうか」
「ヒューペリオン伯爵の手の者に、人を操ることができる人はいませんか」
「聞いたことがありませんね。ヒューペリオン伯爵本人でしょう」
「ええっ」
ロストメモリーズ2が、一斉に声を上げた。
「ヒューペリオン伯爵には人を操る力がないって聞いていたから」
プリンスは言う。
「ご存知ないのも無理はありませんよ。ヒューペリオン伯爵は、催眠術の一種だと思いま
すが、それを身につけたのは最近のことです。別荘で開かれた社交パーティで自慢をして
いたみたいですよ」
マクロスはピンとくるものがあった。
「オルガンさん、そのパーティはいつ開かれたんだ。招かれた人っていうのは」
マクロスは訊いた。
オルガンの答えは、マクロスの予感したとおりだった。
パーティが行われたのは、
マクロスたちがレイを助けた日であり、
招待されたのは町の人々だったという。
伯爵は、この日に限って社交パーティを開いた。
普段は、貴族しか呼ばない。
「すると、伯爵は予定を切り替えた可能性があるってことですね」
加奈が言った。
「なるほど。パーティに来た男性に催眠術をかけて、別荘にいる金髪の男を倒すように命
じたのですね」
風が合点した。
「今日の調査は油断ならない。伯爵がゴスペル遺跡に何らかの手を加えるかも」
その可能性は、みんなわかっていた。
ゴスペル遺跡に到着した一行は、
「どうやら先客がいるってことか」
プリンスが言った。
「ヒューペリオン伯爵は、こちらに手を回したということでしょうか」
加奈が言った。
「だけど、足跡の数は少ないな」
マクロスは、かがみ込んで調べた。
足跡は五人ほどだ。
すごい集団というわけではない。
「こちらも五人ですね。ですが、こちらに人数を合わせたわけではないようです」
風は、マクロスと一緒になって調べた。
セブンは言う。
「慎重に行きましょう。ここに来る途中、二十人くらいの人間の生体反応を確認しました
。我々がここに来ることは予測できるでしょう」
「そうですね」
マクロスは立ち上がって言った。
「よし、行こうぜ」
プリンスの号令で、
ロストメモリーズ2の面々は
ゴスペル遺跡へと足を踏み入れた。

一方、
魔王、ガラテア、オルガンは、
レイのアパートへと向かった。
アパートに着くと、三人は周囲を観察した。
ヒューペリオン伯爵の手の者はいないようだ。
「どうしますか」
魔王が訊いた。
「レイさんに直接会ってみますか」
オルガンが訊いた。
「そうですね。敵がいきなり攻めてきた場合、ちゃんと対処できるように」
魔王は賛成した。ガラテアも賛成のようだ。
「ところで、魔王さん」
ガラテアが訊いた。
「レイさんには、どう名乗るつもりなんですか。マクロスさんは、正体を隠すことを希望
しているんでしょう」
魔王は、今更ながら気づいた。
そう、マクロスはレイに正体を隠している。
「ダナエ聖戦士のひとり」だと言ったら、
マクロスが王族だということがばれる。
ダナエ聖戦士は、王族に仕える側近である。
「じゃあ、マクロスさんがとある貴族の人間で、魔王さんはその家でお世話になっている
ことにしませんか。魔王さんがマクロスさんのことを様と呼んでいるのも自然です」
オルガンが提案した。
「それがいいですね」
魔王は、オルガンの案を採用することにした。
こうして、三人はレイの部屋へと向かった。

「ここで待っていれば」
大柄な男は、にやりとした。
男の前に、大きな石碑がある。
その上部に、何かをはめる穴がある。
石造りの部屋は暗かったが、
窓から光が差し込んでいる。
「レイは、必ずやってくる。私が何も言わなくても」
大柄な男は、自身たっぷりにうなずいた。
「失礼いたします」
この部屋に、小柄な男が入ってきた。
「奴らが遺跡に来た模様です」
「そうか。奴らも来たのか。レイが来る前に邪魔者を片付けるのもいいだろう」
大柄な男はそう言うと、またにやりと笑った。

11.天空へ還る

マクロスたちは、寺院へと足を踏み入れた。
そこに、三人の人物がいた。
「やっと現われたか、盗賊たちよ」
大柄な男が言った。
「ああ、来たぜ」
マクロスは素っ気なく言った。
「お前らだけか」
プリンスが訊いた。
「まさか」
小柄な男が、馬鹿にしたように言った。
セブンは、外から生体反応をキャッチした。
「マスター、生体反応です。人間が二十人くらいいます」
プリンスに焦りの表情が見えた。
「どうした、怖気づいたか」
大柄な男が問う。
「どうやら、転送魔法ですか」
風が冷静に訊き返した。
「お前らは、只者ではないな」
大柄な男が訊いた。
「俺たちは、ロストメモリーズ2だ」
プリンスが張り切って名乗った。
「ロストメモリーズか。すると、そのガキは」
三人目の男が青ざめた。視線の先には加奈がいる。
加奈の表情も、こわばっていた。
「あなた、もしかして」
「やはりそうだったか。俺はあのときの恨みを忘れないぞ。あの一件で俺は主人を失った
。このヒューペリオン伯爵に拾われて助かったが」
「ふざけないで」
男の言葉に、加奈は叫ぶ。
大柄な男がヒューペリオン伯爵である。
小柄な男は、ヒューペリオン伯爵の指示を待っている。
外の集団を入れるか、その時機を見計らっている。
ヒューペリオン伯爵は、ちらりと小柄な男を見やった。
それを、セブンは見逃さなかった。
「マスター、私は外に行きます」
すると、風がそれに続いた。
プリンスは腰のさやを取ると、風に投げた。
「それを使え」
「でも、若は」
「大丈夫、俺にはこれがある」
プリンスは、虹色の弓と矢筒の矢を示した。
「伯爵、あの二人は人間ではありません」
小柄な男が言った。
「黒い甲冑の男はロボットでしょう。そして、黄緑の髪に細目の男は、私の魔法力を察知
したことからエルフだと」
「なるほど」
伯爵はうなずいた。
「さて、どうする。こちらも始めるか」
プリンスが訊いた。
「ふん、お前らごとき簡単に倒してやる」
ヒューペリオン伯爵は、上着を脱ぎ捨てた。
「あいつは絶対に許せない」
プリンスも加奈も言った。
こうして、戦いが始まった。
プリンスの相手は、小柄な男の魔術師。
魔術師の指から光線が発せられた。
プリンスの左腕に、それが命中した。
大した怪我ではなかった。
プリンスは矢筒から矢を取り出すと、
それを虹色の弓で射た。
矢は真っ直ぐに、魔術師に向かう。
そして、魔術師の右腕に命中した。
こいつは右利きのようだ。
回復魔法が使えないらしい。
刺さった矢を抜くと、傷口を押さえるだけだった。
隠し持っていたドラッグで、傷を回復した。
プリンスは、矢筒から長剣を出した。
魔術師はまた、魔法を撃とうとした。
加奈の相手は、三人目の男だ。
こいつを忘れることができなかった。
「あのときのガキが、ここまでの女になるとはな。まあ、まだガキには違いないだろう」
そう言いながら、男は加奈に拳を見舞う。
「俺は、ロストメモリーズを恨んでいる。ガキ一人のために、主人が警察送りとは」
「偽情報を流したのはそっちでしょう」
加奈は、男の拳を受け止めながら叫んだ。
「ものを盗むという、許されない行為を働こうとしたのはそっちだろう」
男は言いながら回し蹴りを見舞う。
蹴りは、加奈の肩に直撃した。
「はは、やはりガキだな」
少し飛ばされた加奈に、
男は容赦なく連続蹴りを見舞おうとする。
加奈は素早く防御の態勢に入っていた。
「盗賊協会が発足した後だったわ。あなたの主人が悪事を働いていたことは明らかだった
。警察も王家も頭を悩ませていた」
男の隙をつき、加奈は蹴りで反撃した。
蹴りは、男に直撃した。
加奈は容赦しなかった。
男に、加奈は連続攻撃を浴びせた。
ものすごい速さで、パンチとキックを繰り出す。
男は吹っ飛ばされた。
加奈の叫びは、泣いているように聞こえた。
「よせ、加奈」
プリンスが止めた。
「もう戦意を喪失している。盗賊協会は、人殺しまでは推奨していない」
プリンスは静かに言った。
すでに魔術師を倒していた。
高位な魔法を使えても、
プリンスの剣術には全く通じなかった。
加奈は、静かに佇んだ。
マクロスは、伯爵の攻撃を牽制していた。
伯爵の大柄な体格は、決して見掛け倒しではない。
武術の腕も一流だ。
下手に攻撃をすれば、カウンターをもらう。
「どうした、やってこないのか」
伯爵がマクロスを挑発する。
マクロスは確信した。
伯爵の動きは、全盛期よりも衰えているだろう。
「お前は、必ず倒す」
伯爵は低い声で言った。
「なぜだ」
マクロスは訊いてみた。
「お前に、レイは渡さない」
伯爵は答えながら、拳をマクロスに見舞おうとする。
「どうして、レイちゃんに固執する」
マクロスは言いながらかわした。
そして続けた。
「どうして、ゴスペル遺跡に固執するんだ」
「それが、我ら一族の長年の夢だからだ」
伯爵は、攻撃の手を止めて叫んだ。
「我らヒューペリオン一族は、グローという国の王族だった。グローは空中遺跡ゴスペル
と交流を持った唯一の地上の国だ。ゴスペルは地上に落ちた。我らはゴスペルを空中によ
みがえらせようとした。だが、アマンダに阻まれた。エウテルペとダナエにも。我々は正
しいことをしようとしたのではないか」
「何が正しいことだ」
マクロスは、強い口調で言った。
「あのときのグローは欲望の塊だった。自分たちの名誉のために空中遺跡ゴスペルを復活
させようとした。エーディン王家の人たちと話し合いをしなかった。ゴスペル遺跡を手に
入れようとした。アマンダ王国も手に入れようとした。エーディン王家の人たちは、そん
な欲望の塊の国に、自分たちが守っている遺跡を渡したくなかったんだ」
マクロスは一息つき、そして続けた。
「お前だってそうだ。一族の夢とか言っておきながら、実際は自分の欲望のためだろう。
空中遺跡ゴスペルが自分のものになれば、それこそお前は有名人だ。そして、空中と地上
の架け橋にもなれる。空中遺跡ゴスペルを自分だけのものにし、空中遺跡ゴスペルを自分
の好き勝手に使う気でいるんだろう。かつて遺跡に住んでいた人たちが望むと思っている
のか。お前は、どうして遺跡が地上に落ちたか知っているのか」
「遺跡が地上に落ちた理由だと」
マクロスの言ったことは、図星だったのだろう。
「俺たちが、何のために遺跡調査をやっていたと思っているんだ。そういう理由を調べる
ためでもあるんだぞ。貴様の欲望のために遺跡調査を中止された人たちの気にもなってみ
ろ。どれだけ悔しかったか」
マクロスたちも気になっていたのだ。
なぜ、空中の遺跡が地上に落ちたのか。
「ええい、黙れ。お前は倒す。あの恨み、忘れるものか」
戦いを見守っていたプリンスが訝った。
「お前は必ず倒す。覚悟しろ、マクベス」
マクロスは、その言葉で凍りついた。
次の瞬間。
伯爵の拳が見舞われた。
マクロスは後方に吹っ飛ばされた。
伯爵が、マクロスのもとへ近づいてくる。
マクロスは、動かない。
「じっくり料理してやるぞ。ファントム・コロシアムで負けた借りが今返せる」
伯爵は、短剣を右手に持っていた。
その短剣をマクロスに向かって振り上げた。
そこが隙だった。
マクロスは、蹴りを見舞った。
「ぐわっ」
今度は、伯爵が吹っ飛ばされた。
強力な一撃のためか、短剣を落とした。
マクロスは、短剣を蹴飛ばした。
「こんなものを隠し持っているとは。全く油断ならない奴だ」
マクロスはそう言いながら、伯爵へ近づいた。
「どうやら、お前との戦いはさっさと終わらせたほうがよさそうだな」
伯爵は立ち上がった。
だが、マクロスの蹴りが相当効いた。
「天駆ける龍の閃き!」
マクロスの技が、伯爵を襲う。
伯爵は倒れた。
「なぜ、お前に勝てない。マクベスよ」
「勘違いしてるぜ、伯爵。俺はマクベスじゃない」
マクロスは言った。
「マクベスは金髪じゃないだろう」
「では、お前は一体・・・」
伯爵は気絶した。
「マクロス。大丈夫か」
プリンスが駆け寄ってきた。
「何て奴だ」
マクロスは、気絶した伯爵を見て言った。
「伯爵は、マクベスさんのことを知っているみたいですね」
加奈も、マクロスに駆け寄って言った。
「そうだね。こいつはファントム・コロシアムの武術大会で父さんと戦ったことがあるん
だろう。そして負けた」
マクロスは言った。
「外が、さっきより静かになってませんか」
加奈が指摘した。
「そういえばそうだ。風とセブンがうまくやってくれたんだろう」
プリンスが言った。
「風さんって、人間じゃなかったんだな」
マクロスが思い出したように言った。
「そういえば、マクロスと加奈には何も言ってなかったよな」
プリンスは話し始めた。
「俺が住んでいたジスロフ帝国で、エルフ狩りが行われたことがあった。エルフは恐ろし
い術を使うとか、エルフの血を飲めば長生きできるとか、そんな噂話が出て、人間たちが
エルフたちの住む場所を次々と襲撃した。風はその生き残りなんだ。エルフの象徴と言え
るとがった耳を、あんな人間のような耳に変えて、そして俺のところへやってきた。以来
、風は俺の付き人なんだ。城にいれば暴君の親父もいるし、エルフ狩り目的の人間も近づ
けないからな」
プリンスは、馬車の音を聞いた。
「なんだ。まだ誰かと戦わなければいけないのか」
プリンスがそう言ったときだった。
風が、寺院に入ってきた。
「どうしたんだ」
「警察の方々がお見えですよ」
プリンスは目が点になった。
「まさか、俺たちを捕まえにきたんじゃないだろうな」
「そんなことはありません。ヒューペリオン伯爵は」
「俺が倒しました」
風の問いに、マクロスは答えた。
「そうですか。それはよかった」
風はほっとしたようだ。
「風さん、何かあったんですか」
加奈が訊いた。
風は、一息入れて言った。
「ヒューペリオン伯爵に、逮捕状が出たんです」

12.空中遺跡ゴスペル

ゴスペル警察の人々は、
ヒューペリオン伯爵一味を逮捕するため
ここに来たのだった。
エボリの指摘があったという。
再捜査の結果、
あの事故は事件だということが明らかになった。
マクロスたちもわかっていたが、
伯爵の一味が自首してきたのだ。
そのため、逮捕に踏み切ったのだという。
「やっと終わったな」
マクロスが言った。
「これで、また遺跡調査が再開されますね」
加奈が言った。
「こちらの方々がお見えですよ」
セブンは、四人の人物を中に入れた。
「マクロス様」
魔王が、マクロスのもとへ駆け寄った。
「魔王。どうしてここに」
「レイさんが、どうしても行きたいと申すので」
マクロスは、寺院の出入り口に目をやった。
「レイちゃん」
「マクロス君」
レイは、マクロスのもとへ急いだ。
「大丈夫ですか」
「うん。伯爵は俺が倒したよ」
「ところで、どうやって皆さんがここに」
加奈が訊いた。
「実は、警察の人たちに送ってきてもらったんです」
ガラテアが答えた。
続いてオルガンが説明した。
「レイさんがゴスペル遺跡に行かなければならないと言ったので、私たちは馬車を調達し
ようとしたんです。この町の人々はゴスペル遺跡には近づきません。タクシー馬車という
手はなくなりました。警察に、私たちはこれまでのことを話し、伯爵は遺跡にいる可能性
もあると言ったのです。すると、ここまで送ってきてくれたのです」
「そういうことだったのか」
マクロスは納得した。
「どうしてレイちゃんはここに来たいって言ったんだ」
プリンスが訊いた。
それに答えるかのように、
レイが持っていた赤い石が光り出した。
「これのためよ。昨夜、これが光ったの。あの歌声に合わせるように。この石は満月の夜
になると光るのよ」
レイは、石を見せて説明した。
「その石を、あの石碑が呼んでいるみたいですね」
風が言った。
「あの石碑のくぼみに、その石をはめろということでしょうか」
ガラテアが訊いた。
「レイちゃん、やってみる」
マクロスが訊いた。
「もちろんよ」
レイは楽しそうに答えた。
石碑に近づくと、石を石碑にかざした。
すると、石が石碑の穴に吸い込まれていった。
レイだけは、それがわかっているかのように
様子をじっと見守っていた。
穴に石が収まると、
レイは何かの詠唱を唱え出した。
最初は唱え出したようだった。
その詠唱は、だんだん歌に聞こえてきた。
どこの言葉ともわからない。
その歌が進むと、石がだんだん強く光り出した。
一行は感じた。
この建物が「浮いて」いることに。
マクロスは、寺院の窓から外を見てみた。
外は夜のように暗かった。
さっきまでは明るかったのに。
本当に夜だ。
マクロスは、確かに見た。
空に星が出ている。
レイは構わず歌いつづける。
そして、寺院は上昇していく。
とうとう復活したのか。
空中遺跡ゴスペル。
レイは歌い終えた。
そして言った。
「私、今まで何を」
自分が歌っていたことを覚えていないようだ。
「ちょっと、外に出てみます」
セブンが、寺院の外に出た。
「浮いていますよ。この遺跡全体が」
「ええっ」
マクロスたちは、一斉に外に出た。
今まで調査してきた遺跡が、宙に浮いている。
そして、空は夜空だった。
地上の様子がよくわかった。
「空中を追われた民たちは、どんな気持ちだったんでしょうか」
ガラテアが言う。
「それにしても、どうして、この遺跡は空中から地上に落ちたのかしら」
オルガンが、そんな疑問を口にした。
「そういえば、マクロス」
プリンスは、気になっていたことを訊いた。
「お前、この遺跡が落ちた理由がわかっていたみたいだな。一体何なんだ」
「この寺院の裏側で見つけた石盤に書いてあった」
マクロスは答えた。
その石盤は、遺跡調査中に見つけたものである。
そこに書かれていた字は、
明らかに地上のものだった。
アマンダで使われている言語が書かれていた。
裏門の柱のすぐ近くに埋まっていたのだ。
「遺跡を地上に落とした懺悔の文だった。遺跡を地上に落としたゴスペルの民。それには
、ディアナを守るためと書かれていた」
「ディアナ」
ガラテア、オルガン、レイが声を上げた。
「知っているんですか」
加奈が訊いた。
「ディアナは伝説の歌手です。このアマンダでは音楽の女神としてあがめられているんで
す。かつて、この世界を自らの歌で癒していたとされる女性です。その住家は空中にあり
、世界をいつも見ていると。争いがあれば歌で鎮めると言われています」
ガラテアが説明した。
「ディアナ。まさか、空中遺跡ゴスペルに住んでいたなんて」
オルガンが言った。
「マクロス様、他にも何か書かれていたのですか」
魔王が訊いた。
「グローの人間がゴスペルと地上を行き来していたってことは、魔王も知っているだろう
。姿麗しきディアナを見つけ、地上に連れて帰ろうとした奴がいた。そいつはディアナを
自分の妻にして歌声で儲けようとしたという。この世界の平和を守っているディアナが、
地上に行き、人間の言いなりになろうとしている。ディアナを守るには遺跡を地上に落と
すしかなかったらしい。それがディアナの意思でもあったらしい。自分はもう疲れたから
、休ませて欲しいということだった」
「なるほど。ディアナは地上だと力を出せないってところか。そして限られた人間に遺跡
を復活させる権利を与えたわけだな。遺跡は土に埋もれたということか」
プリンスが言った。
加奈は、人の気配を感じた。
それは、こちらに近づいてくる。
加奈はその人の姿を見た。
赤い髪。所々に、銀色の髪が混ざっている。
とても澄んだ緑色の瞳。
透明感のある薄い色の肌。
この世のものとは思えないような、
そんな雰囲気を持つ女性だった。
「あなたは」
加奈が訊いた。
その声に、他の人々は注目した。
「私はディアナ」
女性は答えた。
「あなたが」
レイが驚愕の声を上げた。
「ゴスペルの民の末裔よ、よくここまで来てくれました」
ディアナはレイに近づき、そして頭を下げた。
「そんな。私は・・・」
レイは慌てて言った。
「ふふ、それ以上は言わなくていいですよ」
「ディアナさん、本当は遺跡を地上に落としたくなかったのでは」
マクロスは訊いてみた。
「そうね。遺跡を空中に残しておきたかった。地上に落とせば、ゴスペルの民たちにどれ
だけ迷惑をかけるか。ゴスペルの民たちは、地上でもたくましく生きてくれた。そして、
地上とのつながりを強く持ってくれた。遺跡が空中にあったままでは、ゴスペルの民たち
は、地上についてほとんど知らないままだったでしょう。だから後悔はしていません」
ディアナは、にっこり笑った。
「でも、ディアナさんはこうして空中から地上を見守るのですか」
魔王が訊いた。
「この復活は一時的なものです」
「それはどういうことですか」
セブンが訊いた。
「もう、この遺跡は必要ありません。なぜなら、町人がゴスペルの民であることを知らな
いから」
ディアナの言葉に続き、レイが答えた。
「はい。私も全く知りませんでした。今日になって、こんな力があると知りました」
「そうでしょう。だから、遺跡は必要ないのです」
「ただ、私も自分勝手なものです。自分のことは忘れて欲しくないと思い、その赤い石の
ことだけは記録から消しませんでした。そして、満月の夜には歌いました」
レイは、納得したようだった。
「久しぶりに、この天空へ還れてほっとしました。お礼に私の歌をお聞かせしましょう」
ディアナはそう言うと、早速歌い始めた。
とても心地よいものだった。
その歌声に聴き入った。
空の星が、地上へと降っていった。
あまりにも美しい、その光景。
寺院の中から、今度は男の歌声が聞こえてきた。
宇宙刑事チャバン!
男なんだろぐずぐずするなや
俺はひとあしおさきヒカリのはやさで
ダッシュさ♪
寺院から出てきた男の姿に
プリンスは驚いた。
その男は魔術師だった。
「伯爵と一緒に警察に連れていかれたんじゃ」
「アハハ、護送車から脱出するのは造作もない。役立たずの伯爵は置いてきた」
魔術師は強いオーラを放っていた。
すべての攻撃をはね返す威圧感。
「とんだ茶番だったな。伯爵は使いものにならん」
マクロスは、M法という技を放ってみた。
だが、魔術師のオーラは弱まることはない。
「さあディアナ、俺と一緒に来るんだ」
魔術師はディアナの腕を掴んだ。
ディアナの力でも振りほどけない。
魔術師の強すぎるオーラに、
なす術がないと思われたときだった。
空から一筋の光が差し、魔術師とディアナを包んだ。
光とともに魔術師とディアナは消えた。
スターダンス教授の光だった。
星士の力で光を発生させた。
「もう二度とディアナは我々の前には現れないだろう」
スターダンス教授はそう告げた。
遺跡は地上に下りていた。
空は元通り、明るい空になった。
やはり、一時的な復活だったのだ。
一行は、オルガンとレイを家へと送った。
レイは、マクロスにいつ帰るのかと訊いた。
マクロスは、明後日には帰ると言った。
他の面々も、それに了承していた。
明後日は、ガラテアが城に帰る日でもあった。
レイが帰った後、マクロスの表情は暗くなった。
事件は解決した。
遺跡の謎も解けた。
だが、もう帰らなければならない。
彼女とは別れなければならない。
自分で決めたことだ。
彼女は歌いつづけることができる。
それでいいだろう。
彼女は、それで幸せなんだから。
やがて、馬車は別荘に着いた。

翌日の朝刊に、ヒューペリオン伯爵一味が
逮捕されたということが掲載されていた。
また、ゴスペルの町が真昼に突然暗くなり
流星が多数見られたということも載っていた。
復活したという記事はどこにもなかった。
「やっぱり、あれは俺たちしか知らないんだろうな」
プリンスが、帰り支度をしながら言った。
「そうですね。あのことは、誰にも言わない方がいいみたいですね」
風の考えには、プリンスもセブンも賛成した。
「おう、それは言えてるな」
「私も同感です」
一方、マクロスと魔王は。
「今度レイちゃんに会うときがあったら、本当のことを言おうか」
「確かに、隠し事はよくないですからね」
「でもよ、俺はダナエのみんなに隠し事をしているからな」
「盗賊であることを」
ガラテアと加奈は。
「こっちに来たと思ったのに、もう帰るなんて。そして、帰ったらすぐに学校生活だわ」
「まあまあ、こちらでの出来事をみんなに話してあげたらどうでしょう。空中遺跡ゴスペ
ルのことは除くとして」
「そうですね。でも、私はみんなと違って、そう長くいたわけじゃないし。だけど、ガラ
テアさんやオルガンさんやレイさんと知り合えたのはよかったな」
帰り支度が整い、アマンダ城から使いが来た。
もう、ここともお別れだ。
ガラテアは使いの人と一緒に行くが、
マクロスたちもアマンダ城に寄る。
馬車は返さねばならない。
首都まで鉄道で移動する。
別荘を出ようとしたとき、
レイとオルガンが見送りにきていた。
一行は、レイとオルガンに別れを告げた。
「皆さん、また来てくださいね。私もエウテルペに行きますから」
オルガンが言った。
「ああ、また会おうぜ」
プリンスが言った。
「きっと、また会えるわよね」
レイが、マクロスに言った。
「うん。きっと会えるよ」
マクロスはそう言うと、微笑んだ。
そして、馬車に乗り込んだ。
風が手綱を引くと、
ラインストーンとトリプルダブルは走り出した。
ロストメモリーズ2は、
エウテルペへと帰っていった。

おわりに
息子がエウテルペから帰ってきた。
どこか寂しげだった。
魔王からその事情を聞いて、
マクベス・ダナエは納得した。
水色の髪に、紅い瞳。
「マクベス様」
「どうした、魔王」
魔王は、書簡を持って執務室へと入ってきた。
「こちらを」
その書簡は、ガラテア・アマンダ王女からだった。
「そういえば、ダナエに演奏に来るという報せが前にあったな。その関係か」
マクベスは、そう言いながら書簡を見た。
「魔王、これを見てみろ」
マクベスは、何やら興奮して魔王に見せた。
「こ、これは」
魔王は、自分の目を疑った。
マクベスは、楽しそうに言った。
「これは面白いことになってきたぜ」
その数日後の昼下がり。
エウテルペ盗賊協会のギルドでは。
「それにしても、こんなに早く、こんなことになるなんてな」
プリンスが言った。
「若、それじゃ、あの二人が結婚するみたいじゃないですか」
風は、少々呆れて言った。
「ところで、私のことはもう話されたんですね」
「ええ、プリンスさんから聞きました」
加奈が言った。
「俺は、風さんは只者ではないと思っていましたよ。短期間でエウテルペ語を話せるよう
になったんですから」
ギルドに遊びに来ていたエボリが言った。
エボリは、ロストメモリーズ2から
風の正体を聞かされたのだ。
「エボリさんは、風の能力に気づいていたんですね」
セブンが言った。
「それにしても、今ごろ」
プリンスの顔はにやけていた。
「ダナエ城はどうなっているか」
「確かに、考えたらちょっとは面白いですよね」
加奈が言った。
「だけど、あのことはご本人には伝えていないんでしょう」
風が訊いた。
「ガラテアは伝えないようにっていう指示を出したみたいです。俺たちも指示を受けまし
たから。当人同士は知らないと思いますよ」
エボリが答えた。
「ガラテア王女様は、静かなように見えて大胆なことを考え付くんですね」
セブンが、感心したように言った。
「人は見掛けによらないってとこか」
プリンスが言った。
「悪いようにはなってませんよね、きっと」
「ちょっと本人の意思とは違う方向にいったが、これはこれでいいだろう」
「そうですね若。言うのがちょっと早くなっただけで」
「加奈さんの言うとおり、悪いようにはならないと思いますよ、マスター」
「近いうちに、あっちから報告があると思うぜ、プリンス。気長に待っていよう」
ダナエ城では。
謁見の間に、二人の謁見者があった。
一人は、アマンダ王国の王女ガラテア・アマンダ。
そしてもう一人は、長くて水色の髪を持つ女性。
「初めまして、マクベス・ダナエ王子。レイ・フォルツァンドです」
女性は名乗った。そう、レイだった。
ガラテアの演奏旅行の際、
ゲストとして来てもらうことを
ガラテア自身が提案したのだ。
歌手として活動を続けられるその祝いだった。
「初めまして。ダナエ国王代理のマクベス・ダナエです」
マクベスは、玉座から立って挨拶した。
「ガラテア王女もレイさんも、どうぞ楽にしてください。こちらに来る人物がいます」
マクベスの言葉に、レイは訝った。
「私はその方と会わなければならないということですか」
「そうです」
マクベスは即答した。
レイは思っていた。
マクベス王子、なんだか似てる。
そうなのだ。
似ていた。
名前もそうだが、その顔つきも。
レイの鼓動は、自然と高鳴っていた。
そして。
謁見の間のドアが叩かれた。
「どうぞ」
マクベスは穏やかに言った。
「失礼致します」
ある青年が、部屋に入ってきた。
「マクロス君」
「え、レイちゃん」
お互い、どうしてという反応だった。
「どうしてここに」
「いや、魔王に言われてここに来た」
「おい、マクロス」
マクベスが口を出した。
「まったく、それが挨拶か。お客人だぞ」
「だって、父さん」
レイは、再度驚いた。
マクベス・ダナエ王子は、
この青年の父親だったのか。
ガラテアは言った。
「マクロスさん、今の言葉で、すべて話したも同じですよ」
「息子があんな調子だから、俺が代わりに」
結局、マクベスが言った。
「そちらはマクロス・ダナエ。私の息子です。おわかりいただけましたか。レイさん」
「そんな。マクロス君がダナエの王子様だったなんて・・・」
レイは、震える声でそう言った。
そして、マクロスの前でひざまずいた。
「今までのご無礼をお許しください、マクロス・ダナエ王子。知らぬこととはいえ」
「頭を、上げてください」
マクロスは、静かに言った。
レイは、ゆっくりと頭を上げた。
マクロスは、レイの手をとって言った。
「また会えて、嬉しいです」
その口調は、マクロス・ダナエとしての立場と、
盗賊としての立場と、二つが複雑に絡み合ったものだった。
レイに対して怒っているというわけではない。
優しさに溢れていた。
「ダナエの中で、息子が盗賊なのを知っているのは部下の魔王と依頼をした老紳士のみ」
マクベスが説明した。
「ここにダナエの兵士を入れなかったのは、そのためですね」
ガラテアが言った。
「さて、ガラテア王女。俺たちは退散しようぜ」
「そうですね、マクベスさん」
ガラテアは同意した。
マクベスとガラテアは退室した。
残されたのは二人。
二人は抱きあった。
「ごめん、今まで黙ってて」
「ううん、いいの。だってまた会えたんだから」
この地上で生きていれば、きっとまた会える。
それを、彼は実感できた。
空中遺跡ゴスペルの、もうひとつの架け橋。
こうして、再会のときを迎えたのだった。

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