2017年4月3日月曜日

青年と賭博王

21歳のマクロス・ダナエは、夏休みにエウテルペに滞在した。
エウテルペ城下町競馬場にて、競馬が開催されていた。
マクロスは、ライズと一緒に競馬場に来ていた。
ライズは、大学教授のスターダンスの息子だ。
二人は、競馬場内にあるレストランにて昼食を食べていた。
マクロスは、ダブルチーズバーガーにアイスコーヒー。
ライズは、フィッシュバーガーにアイスココア。
これらの他、二人はチキンナゲットも注文した。
「それにしても、俺はさっぱりだよ」
ライズが言った。
「エウテルベ競馬場は持ちタイムが基本だ」
マクロスは教えた。
「で、午後のレースはどうする」
ライズの問いに、マクロスは答えた。
「メインは買うけど、他はあんまり自信がないんだよ」
「じゃ、俺もそうしよう。メインレースの資金がなくなったら嫌だから」
「もうそんなに使ってるの」
「いや、そんなわけじゃないけどさ」
ライズは慌ててそう言った。
ふと、向こう側に人だかりができていることに気づいた。
マクロスは、そっちを見た。
「ライズ、行ってみるか」
「そうだな。まずは、これを食ってからにしよう」
「それもそうだ」
二人はさっさと昼食を終わらせた。

人だかりの中心に、褐色の肌を持つ男がいた。
逆立ったような感じの金髪に、鋭い目。
金髪は一部、ピンクに染められていた。
腰には、さやが二つ。
それぞれに、長剣が収められている。
人々は、男の話を熱心に聞いていた。
マクロスは、ライズに小声で話しかけた。
「あの武器からすると、剣士ってところか」
「多分な。2本の長剣を使い分けているんだろう」
「見た目は強そうだが・・・」
二人は、剣士の言葉に集中した。
「次のレースでは、この馬が来る」
剣士は、自信ありげに話している。
「スペシャルプライスが俺の狙い目だ。父はスカイラン。スカイランといえば、左回りに
強い。エウテルペ城下町競馬場も左回りだ」
「でも、それだけじゃないだろう」
マクロスは剣士に突っ込みを入れてみた。
「その点なら心配ない。芝2400メートル。スカイラン産駒(産駒は、子供という意味
)は、左回りの長い距離には強い。だから俺はスペシャルプライスで勝負する。他の馬は
過去の戦績から考えても不安だ」
「そうかな」
マクロスは、声を上げた。
「何だ。俺にケチつけるのか」
剣士が、マクロスのほうを見た。
「うん。それもあるとは思うけどな・・・」
マクロスは、曖昧に言った。
「マクロス、スペシャルプライスで堅いだろう」
ライズが訊いた。
「いや、俺は切っている。馬場状態が悪かったら考慮しているけどね」
マクロスは剣士に聞こえるように答えて、
その場を離れた。ライズもそれに続いた。
ライズは思っていた。
あの人、どっかで見たことがあるような。

マクロスは、次のレースで買う馬を決めていた。
「何を買う」
ライズは、マクロスの予想が気になった。
「馬連1-5の一点勝負」
ライズは、すぐに出馬表で調べた。
「えーと。1番はサニーデイで、5番はスカイウイングか」
ライズは、ふと思った。
「マクロス、スカイウイングて、スカイラン産駒だよな」
「ああ、そうだよ」
「剣士が言っていたスペシャルプライスもスカイラン産駒だよ。どうしてスカイウイング
は買えるんだ。ここにきて弱気が顔を出したか」
「あはは」
「で、理由は何なの」
「スカイラン産駒は長距離だと強い。あいつの言うとおり左回りにも強いけどね。普通は
左回りで長距離なら買い。だけどスカイラン産駒はへそ曲がりでね。母方の血がうまく出
ると、当てはまらなくなる。スカイウイングの母の父はホイスト。短い距離で活躍した。
さらに、重馬場しか走らない。スペシャルプライスの落し穴だよ」
「マクロスは、スカイウイングは対抗だよね」
「これまでの戦績を考えたら、サニーデイが格上だと思うよ。サニーデイは、エウテルペ
城下町競馬場ではいい成績を残している。ここ最近は3着が続いているが、相手が強かっ
たからね。今回のレースは相手弱化で、狙える」
「なるほど。俺もマクロスの予想に乗ってみるか」
「外れても責任は取らないよ」
マクロスは、弱気なことを言った。

午後のレースが始まった。
まずは、マクロスが一点勝負に出たレースである。
パドックでの気配は、
サニーデイ、スカイウイング共に絶好調だった。
スペシャルプライスは、少々いれ込んでいた。
本場馬では、マクロスとライズはゴール板近くの席に陣取った。
あの剣士も近くにいた。
剣士の周囲には、相変わらず人々が集まっていた。
ファンファーレが鳴り、出走する馬たちがゲート前に集まった。
次々と馬たちがゲートに収まり、態勢が整った。
そして、スタートが切られた。

「がはは、俺の言ったとおりだっただろう」
「よーし、この調子で次もいくぞ」
バカでかい声がした。
このレースで笑ったのはマクロスのほうだった。
1着サニーデイ、2着スカイウイング。
スペシャルプライスは5着に沈んだ。
マクロスは、倍率31.0の馬連を見事に的中させ、
1000円を31000円に増やした。
ライズも、同じく的中した。
「マクロス、次のレースの狙い目は」
「まだ決めてない。どれも捨てがたいからね。パドックを見てからだ」
「ライズは何を買う」
「今日はマクロスに乗ってみるよ」
二人が、パドックへ向かおうとしたときだった。
「おい」
剣士が声をかけてきた。
「何ですか」
マクロスが返事した。
「お前ら、一体何者だ」
青年の予想が当たったことが気に食わないらしい。
ここで正体を明かしたら、
さらに落胆するだろう。
マクロスは思った。
「俺を知らないなんて、おめでたい奴だな」
マクロスは笑いながら言った。
剣士は、エウテルペの人間ではないようだ。
ライズは名前を言った。
「ライズだ。こっちは、ビンタ師匠」
マクロスは呆然とした。
きょとんとする剣士。
「じゃ、そういうことで」
ライズは、
マクロスを引きずるようにして、その場を立ち去った。

「何なんだよ、ビンタ師匠って」
馬券を買ったあと、マクロスは訊いた。
「マクロスは、ただのビンタを武術の域まで昇華させた、ビンタの創始者だろう」
ライズはさらりと答えた。
「それとも、ビンタエンペラーのほうがよかったか」
「俺はマクロスだよ。他の誰でもない」
名字を言わなければ、王族だとばれないだろう。
「あの剣士、どこかで見たことあるな」
ライズは、話題を変えた。
「おそらく賭博王だよ」
「うん。賭博王フィフティ・ロマンサ。カジノ荒らしと新聞に載っていた。剣士の顔を見
たときに、思い出した」
「だから、人が集まってたわけか」
「競馬でもいい予想をしているらしい。ウェスタではかなりの的中率を誇ったみたい」
ライズは、ここで言葉を切った。
「あいつの予想はウェスタ競馬を基盤にしていたのか。ウェスタとエウテルペじゃ勝手が
違うぜ。芝やダートの質がまるで違うからな」
「おい、こら」
後ろから声をかけられ、マクロスとライズはびびった。
振り返ると、フィフティ・ロマンサがいた。
「ライズとビンタ師匠だったな」
「ビンタ師匠を真に受けるなよ。俺はマクロスじゃい」
マクロスは、言葉を荒げた。
「おい、次のレースは何を買ったんだ」
「次のは自信がないから、馬連ボックス2、6、9(ボックスは数字のすべての組み合わ
せ)の三点だ」
「俺も同じです、賭博王」
ライズは、やや皮肉混じりに言った。
「どうやら、俺のことを知っているようだな」
「マクロスと勝負するとでも」
「そうだ。俺は、この野郎と勝負する」
マクロスは、今度は冷静に言った。
「賭博王の挑戦、受けて立ちまっしょ」

その頃、
エウテルペ城下町にある宿屋・並木道の前では。
「もう、フィフティさんったら、どこに行ったのかしら」
こげ茶色の髪を腰まで伸ばした、
マリンブルーの穏やかな瞳を持つ女性が辺りを見回していた。
腰には白いさやに収められた短剣があった。
「あの、どうかしましたか」
エウテルペ王国第二王子の
エボリ・ウイング・エウテルペが声をかけてきた。
女性は、エボリに声をかけられ少し驚いたようだ。
エボリは藍色のうねった感じの髪に緑色の瞳。
腰にはパイプ銃が下げられている。
エボリの横には、もうひとり女がいた。
「俺はエボリ・ウイング・エウテルペ」
「オレはビンティカ・ダナエ」
「王子様とお姫様でしたか。私は愛里です」
女性は名乗った。
「愛里さんですね。何かお困りのことでも」
エボリは、本題に入った。
「実は、私の夫がどこかに行ってしまったんです。午後にここの女王さまに挨拶しに行く
予定だったのに。ほんとに何を考えているのかしら」
愛里の言葉に、ビンティカは言った。
「大丈夫ですよ。オクタビアン様は訪問が少しくらい遅れても怒りませんから」
「愛里さんだけでも挨拶に来ますか。俺たち、これから帰るところですから」
エボリがそう言ったので、愛里は行くことにした。
城に向かう間、エボリとビンティカは愛里から話を聞いた。
「では、愛里さんはハンターなの」
ビンティカが訊いた。
「魔物を退治したり、探し物を見つけたり、人手不足の仕事を手伝ったりしているの」
愛里は言った。
「ハンターて言ったら、ハンターのギルドがあるんですよね」
ビンティカの言葉に、エボリが付け加えた。
「エウテルペ王国内にも、ハンターのギルドはあるけど、国の機関じゃないからな」
「盗賊ギルドが国の機関なのもわかるわ。本来、盗賊は認められていない職業だもの」
愛里はうなずいた。
「ダナエには盗賊ギルドがないんだよな、ビンティカ」
「ああ。ダナエは盗賊を容認していない。エウテルペに盗賊ギルドができたのも最近だ」
「そう。ある事件がきっかけだった。盗賊が容認されたためか、いばりちらす貴族が減っ
たな」
「盗賊ね。私も、盗賊ギルドを早く知っていたら盗賊になっていたかもしれないわ。ハン
ターとしての仕事を先に知ったから、ハンターになったのよ」
愛里はそう言った。
エボリとビンティカは、
愛里を女王の執務室に案内した。
「失礼します」
「どうぞ」
中から声が聞こえた。
「お帰りなさい」
オクタビアン・ドーベル・エウテルペがいた。
肩まで伸びた茶色い髪をひとつに結っている。
穏やかな茶色い瞳。右目には黒い眼帯。
部屋には、もうひとり人物がいた。
水色の髪に、紅い瞳の男性である。
ビンティカの父親であるマクベス・ダナエだ。
マクロスの父親でもある。
「父さん、オクタビアン様に嫁になってくれと言いにきたのか」
「何言ってるんだよ、ビンティカ。 俺は再婚しないって決めているんだ。それとも再婚
してほしいのか」
「絶対嫌だ」
マクベスは、愛里に気づいた。
「この国に観光にやってきた、ハンターの愛里さんです」
エボリが説明した。
「お目にかかれて光栄です、オクタビアン女王陛下、マクベス王子」
「初めまして。そんなに固くならなくてけっこうですよ愛里さん」
「ところで、兄さんはまだ帰ってきてないわけ」
「時計を見てみろよ、ビンティカ。まだ帰ってくる時間じゃないだろう」
マクベスはそう言って、壁にかかっている時計を指した。
ビンティカは、時計を見た。
「そういえばそうだ。兄さん、今日は儲けてくるかな」
「あいつ、何だか知らないけど、儲けることが多いからな」
「何の話ですか」
愛里には、何のことだかわからないようだ。
「競馬ですよ」
オクタビアンが教えた。続けてエボリが言った。
「ビンティカの兄であるマクロスさんは、競馬が好きなんです。馬券の的中率もけっこう
高いんですよ」
「競馬」
愛里が頓狂な声を上げたので、エボリたちはびびった。
「あの、競馬がどうかしたんですか」
マクベスが訊いた。
「ええ。まさかとは思うけど」
愛里は、どこか険しい表情で言っていた。

最終レースが終わった。
人々は、オケラ街道に列をなしている。
「いやー、今日はよかったよ」
マクロスが、満足そうな表情で言った。
「俺も。マクロス君の予想に乗ってよかった」
ライズが言った。
フィフティは、言葉がない。
結局、フィフティが当てたのは最終レースだけだった。
マクロスは、ボックス馬券は外したが
準メインとメインと最終は的中させた。
この日の収支は大幅プラスだった。
ライズも、途中からマクロスと同じ買い方をしてプラスになった。
今回の馬券勝負は、マクロスの勝利である。
「てめえ、これでいい気になるんじゃねえ」
負けたのに、フィフティは態度が大きい。
「負け犬の遠吠えかよ」
ライズは言う。
「こっちの競馬について、勉強が不十分だったんじゃないですか」
マクロスの言葉は図星だった。
「俺は、競馬を賭博とは思っていません。スポーツであり、娯楽である。そう思っていま
す。金のことばかり考えていると面白くなくなりますからね」
マクロスは言う。
「さて、帰ろう。父さんたちに何言われるかわからん」
「そうだな。勉強して出直せよ賭博王」
「機会があったら、また勝負しましょう」
フィフティは返す言葉がなかった。

「ライズさんにマクロスさん」
逆立った金髪に鋭い目の人物が声をかけてきた。
「林君」
ライズは、その人物を見て言った。
林は、エウテルペ城で兵士補助係として
武器について研究している。専門は銃だ。
林も、これからエウテルペ城に帰るようだ。
「どうだったんですか」
林は、二人が競馬場に行っていたことくらい知っている。
「だいぶ儲けたよ」
マクロスが答えた。
「それはよかった。ところで、マクロスさんは知っていますか。城下町のビアホールを」
林の言葉に、マクロスは興味を示した。
「マクロス君には言ってなかったな。今月いっぱい、城下町の酒場や喫茶店が合同で公園
にビアホールを作るっていう企画なんだ。毎日賑わっているみたいだよ」
ライズが説明した。
「面白そうだな。行ってみようかな」
マクロスは言った。
「ライズさんも行くでしょう。城の人には、俺が伝えておきますよ」
林の言葉に、マクロスはほっとした。
城の人には、競馬が終ったらすぐに帰ると言っていたからだ。
「そうだ林君。マクベスさんにこのことを伝えてくれないかな」
ライズの頼みを、林はちゃんと聞いてくれた。
「いいですよ。そういえばマクベスさん、こういうの好きそうですよね。酒に強いし」
林は、エウテルペ城に向かった。
「父さんのこと、放っておくところだった」
マクロスは、ライズに感謝しているようだった。
「放っておかれたら、マクベスさん、へこむだろう」
「なんで誘ってくれなかったんだって、愚痴を言われるよ」
二人は、ビアホールの会場となっている
エウテルペ城下町中央公園に向かった。

「かんぱ~い」
マクロス、ライズ、マクベスは、
ビールジョッキを目線より高い位置にかかげると口へと運んだ。
「おー、うまいな」
マクベスは、この味が気に入ったようだ。
「エウテルペでも評判がいいビールですよ」
ライズが言った。
ビアホールは、とても賑わっている。
「つまみは何があるんだろう」
マクロスは、メニューを見てみた。
「やっぱり、ビールには枝豆だろうな」
ライズは、ここである人物を目にした。
「あ、賭博王」
「え」
マクロスもマクベスも、ライズが指した方向を見た。
このテーブルから少し離れたところに、賭博王はいた。
しかも、女連れだった。
「あの人は誰なんだ」
マクロスは、賭博王の向かい側に座っている女性を見て言った。
「愛里さんだ」
マクベスが言った。
「知ってるのか、父さん」
「今日の昼間、エウテルペ城に挨拶に来たからな。ビンティカとエボリ君とすぐに仲良く
なったみたいだ。エウテルペ城を案内しているときに、トロス君とミルテちゃんにも会っ
て、すぐに仲良くなった」
「旅人なんですね」
「ハンターなんだよ、ライズ君。まあ、旅人っていうのも合っているけどな。観光でエウ
テルペに来たんだってさ」
マクベスの説明に、マクロスもライズも納得した。
「すると、あの人が愛里さんの夫というわけか」
「夫だと」
マクロスとライズは、本当に驚いたようだ。
「賭博王が結婚していたとは」
マクロスは、動揺しているような声で言った。
「二人とも、賭博王とは何かあったのか」
マクベスの問いに、ライズが答えた。
「今日のレースで、マクロスと勝負したんですよ。結果はマクロスの圧勝でした」
「そうか。なら、マクロスが新たなる賭博王ってわけか」
「父さん、俺は競馬にしか興味がないよ」
「そういうところ、コッペリアにそっくりだな」
マクベスの妻、コッペリア。
ビンティカを自分の命と引き換えに産んだ。
「俺は、コッペリアのことを忘れたことはないぜ。特にマクロスは、性格がコッペリアに
似ているからな。コッペリアも馬が好きだった」
「マクベスさん。どうして、愛里さんが結婚しているってことを知っていたんですか」
ライズは、これが気になっていた。
「愛里さんが、マクロスと運命君が競馬場に行っているっていうことを聞くと、突然表情
が変わったんだ。話を聞いてみたら、夫が賭博王だということがわかった。そして本当は
二人で挨拶に行く予定だったのに突然いなくなったものだから、原因は競馬場にあるって
いう結論に達したんだ」
マクベスは説明した。
「なんで賭博王と結婚したんだろう」
マクロスには、それが疑問だった。
「それが、何だかいい話だぜ。二人が出会ったのはカジノ付きの喫茶店なんだってさ。そ
こはハンターのギルドも兼ねていた。ひょんなことから知り合って、それから付き合いが
始まった。賭博王は、とうとう愛里さんに結婚を申し込んだ。俺の全財産をお前に賭ける
って言ってな」
「なんだか、かっこいいな」
ライズは言った。
「父さんは母さんに何て言ったわけ」
マクロスは、前々からこれが気になっていた。
「お前さえよければっていうようなことだったな」
マクベスは、曖昧に答えた。
「それよりマクロス。お前はどうなんだ」
「父さんも知ってるでしょ。俺が全然もてないってこと」
ライズは考えていた。
マクロスの理想の女性というのは、
マクベスが愛した女性・エリスである。
綺麗で、しかも可愛く、優しく、
誰からも好かれるエリス。
そのような人はそうはいない。
「そういえば、オクタビアン様の次の王位って、すんなり決まったよね」
マクロスは、そのことを思い出した。
「うん。次はトロスだって案外すんなり決まったよ。母さんは、本当はエボリに継がせた
かったみたいだけど、それだとエボリは探偵をできなくなるからな。探偵としての能力が
いちばん優れているのはエボリだし、エボリのおかげで助かった人はたくさんいる。トロ
スなら、俺なんかより統率力があるし、人前に立っても動じない。あの結論には納得でき
るよ」
「仮にビンティカがエボリ君と結婚したら、多分エウテルペに行くんだろうな」
マクロスの言葉に、マクベスはうなずいた。
「結局、俺の次はマクロスだ」
「だから、早く相手を見つけてくれってことか。だけど、俺がすぐに王位を継ぐわけじゃ
ないから、放っておいてよ」
「そうする。お前の相手はお前が見つけろ」
マクベスのこの言葉に、重い意味を感じた。

帰り道。
マクロスは、ある人物をみかけた。
黒い髪を腰まで伸ばした少女。
目にはゴーグルがある。
エウテルペ城下町に住んでいる少女盗賊・加奈だった。
「加奈ちゃん」
マクロスは声をかけてみた。
「あ、マクロスさん」
加奈は、マクロスに気づいてくれた。
「こちらに来てたんですね」
「夏休みだからね。加奈ちゃんは、これから仕事」
「はい。ちょっと行ってきます」
「そりゃ、声かけて悪かったかな」
「構いませんよ。それじゃ」
「うん」
こうして、マクロスと加奈は別れた。
先を歩いていたマクベスが、気づいて声をかけてくる。
「何でもないよ」
マクロスは、
(エウテルペ所属の盗賊になる)
急にこんな思いが頭を回り出した。
やっと、自分がやりたいことが見つかった。
あの少女の姿を見たら、自分でもそれをやりたいと思った。
自分よりも10歳も年下の少女が、
誰かを助けようとしている。
盗賊協会の盗賊たちは、悪い奴らをこらしめている。
「おい、何かあったのか」
マクベスが訊いた。
「いや、何でもない。賭博王たちに声をかけたほうがよかったのか」
マクロスはそう答えておいた。
自分の決心は、まだ誰にも言わないつもりだ。

次の日、オクタビアン女王陛下のもとへ来客があった。
ハンターの愛里が夫を連れて、再びエウテルペ城にやってきた。
「こんにちは、愛里さん」
エウテルペ王国第三王子トロス・ブライアン・エウテルペが、
愛里の姿を見つけて挨拶した。
「こんにちは、トロス君。それにミルテちゃん」
愛里は、トロスとその傍らにいた
妹のミルテ・ヴェガ・エウテルペに挨拶した。
「ところで、そちらの方は」
ミルテの問いに、愛里の夫は答えた。
「俺は、フィフティ・ロマンサ。賭博王だ」
「ちょっと、失礼でしょうフィフティさん」
愛里が注意する。
「何だよ」
フィフティは、なんだかわからないという様子だ。
「構いませんよ。そっちのほうが気楽です」
トロスは答えた。
「もしかして、母さんに会いに来たんですか」
ミルテが訊いた。
「はい。オクタビアン様は今日はどちらに」
「母さんは、今日は来客のために謁見の間にいます」
「お兄ちゃん、来客て愛里さんの旦那さんのことかもね」
フィフティは、
トロスとミルテが女王陛下のことを母さんと呼んだので、
この二人は女王陛下の子供であることは想像がついた。

フィフティと愛里は、
エウテルペ城の謁見の間に通された。
オクタビアン女王陛下は、王家の代表者の椅子に座っていた。
フィフティは、オクタビアンの前まで進み出て挨拶した。
「ご機嫌麗しゅうございます、オクタビアン女王陛下。フィフティ・ロマンサです」
「ようこそお越しくださいました。あなたのお話は奥様から聞いています」
フィフティは、オクタビアンの左側の人物を見た。
「あっ、ライズとビンタ師匠」
他にも、マクベス、エボリ、ビンティカ、林もいた。
「兄さん、ビンタ師匠ってどういうこと」
ビンティカが訊いた。
「あはは、ビンタキングのお株を奪われたか」
林が面白がった。
「私はスターダンス。通称はライズで、一介の大学生です」
「俺はマクロス・ダナエ。ダナエ王国次期王位継承者マクベス・ダナエの息子です」
マクロスにいわれたので、マクベスも挨拶した。
「初めまして、賭博王。昨日は息子がお世話になったそうで。マクベス・ダナエです」
フィフティは、固まってしまった。
「フィフティさん。まさか、ものすごい失礼をしたんじゃ」
愛里が、おそるおそる訊いた。
「構いませんよ。面白かったし」
マクロスが言った。
「ところで、なんでビンタ師匠と」
エボリが訊く。
「いや、ビンタエンペラーっていうのも考えたんだけどね」
ライズが言った。
「こいつは傑作だ」
林が言う。
「俺は絶対使わない」
「えー、ビンタエンペラーて、けっこうかっこいいのに」
トロスが言った。
「お兄ちゃん」
ミルテは、少々呆れている。
「フィフティさん」
オクタビアンが、心配になって声をかけた。
フィフティは、その言葉で我に返った。
「ああ、すみません。ちょっと驚いたもので」
「ちょっとどころか、かなり驚いてたぞ」
ビンティカが指摘した。
「賭博王も、マクロスさんにはかなわなかったってわけか」
林は、昨日のことを知っているので滑稽だった。
「ところで、賭博王は剣士なんですか」
エボリが、フィフティの腰にあるさやを見て言った。
「だったら、トロスやマクベスさんと手合わせしてみては」
「それはいい考えだな」
「賭博王、ぜひお願いします」
マクベスもトロスも乗り気だ。
フィフティは、どうしてトロスまでと思っていた。
「賭博王、トロスの剣の腕前はマクベスさんと互角ですよ。勝てる人間は少ないです」
林の言葉に、フィフティは再度びびった。
愛里は、オクタビアンたちに頭を下げた。
「私の夫が、大変失礼をいたしました。お詫びします」
「頭を上げてください愛里さん。マクロス君も、悪いとは思っていないです」
オクタビアンは言った。
愛里はほっとした。
「ところで、いつまで滞在するんですか」
マクベスは、ちょっと訊いてみた。
「今週末まで滞在する予定でいます」
愛里は答えた。
「だったら、また馬券勝負ができますよ」
林が言った。
「そうだね林君。さて賭博王、どうしますか。俺はいつでも受けて立ちますよ」
マクロスがこう言ったので、フィフティは気を取り直して言った。
「ああ、当然、勝負させてもらう。今度は負けないぜ」
「もう、フィフティさん、やめてよ」
「賭博王として、負けたままじゃいけないんだ」
そのやりとりは、
オクタビアンも、ライズも、エボリも、トロスも、ミルテも、林も、
マクベスも、ビンティカも、そして、マクロスも笑わせた。
賭博王とハンターという、一風変わったこの夫婦。
だが、けっこううまくいっているみたいだ。
「まだまだ、楽しくなりそうだね」
ライズがマクロスに小声で言った。
「おう。今度も勝って恥をかかせてやろう」
マクロスは、ライズに酷なことを言った。

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