2017年4月6日木曜日

奇妙な依頼

はじめに
青年は、ターゲットの家の前で足を止めた。
立派なレンガ造りの家。
青年の後ろから、声がした。
「おじさん、何してるの」
振り向くと、
小学生のグループがこちらにやってきた。
「おじさんじゃないよ、怪盗MRDって呼ばなきゃ」
青年が言った。
「うそだ」
少年たちが口をそろえた。
「ねえ、おじさん、ぼくの家に何か用事なの」
「ここ、君の家なのか」
「そうだよ」
青年の問いに、少年が答える。
「君の家に、英雄スターダンスの石膏像はあるかな」
「それを盗みに来たの?」
少年はきょとんとしている。
「うん。まあね」
青年は正直に言った。
「それなら、今から僕が持ってきてあげるよ」
少年は答えた。
「あ、スターダンスの像が盗まれては壊されるっていうの新聞でみたよ」
少年の友達が言った。
青年は苦笑した。
「でもね、盗んでいる人と壊している人は違う人なんだ。俺は、壊すようにとは頼まれて
いないんだ」
「僕、ちょっと行ってくるね」
少年はそう言うと、家に入っていった。
しばらくして、スターダンスの石膏像を抱えて戻ってきた。
「大丈夫だった」
青年は、少年から石膏像を受け取った。
「うん、大丈夫だよ」
少年は、そう言って微笑んだ。
「どうもありがとう。これで盗みに入らずに済んだよ」
「うん。怪盗MRDに協力できてよかったよ」
少年の友達が言った。
「じゃあね」
少年たちは、去っていった。
青年はギルドに向かった。
ギルドの近くまで歩いたときだった。
青年の目の前に、顔に布を巻いた人物が現れた。
この人物の出現に、青年は焦った。
(こいつは、依頼人か・・・)
体格は大柄で、威圧感があった。
黒ずくめの格好だった。
布の隙間からは、爛々と輝く茶色い瞳が見えた。
人物は、青年に手を伸ばし
石膏像を奪おうとした。
青年は、相手の攻撃をかわした。
「俺は、怪盗MRDだ。さっき、リッヒ・ミルバ教授の家から、これをもらってきた」
青年は、そう告げた。
そう、もらったのだ。
盗んだのではない。
この言葉を聞いた人物は、
なにやら焦ったようなしぐさを見せた。
そして、懐から封筒を出すと
それを青年に渡した。
青年はその封筒を受け取ると、
石膏像を人物に渡した。
人物は、逃げるようにそこから去っていった。

1.重複した依頼

マクロスは、盗賊協会の建物に入った。
カウンターには、チェックメイトがいた。
紫の髪に、右目は青、左目は濃い桃色の瞳。
奥には、風がいた。
薄い黄緑の髪に細い目、腰に剣を収めている。
風は、エウテルペ王国の
はるか西に位置する大陸の
ジスロフ帝国の出身である。
見た目は人間だが、実はエルフなのだ。
腰にある剣は、マクロスが貸した剣である。
剣は、マクロスソードと呼ばれている。
「チェックメイトさん、依頼は入っていますか」
「そうですね」
チェックメイトは、なにやら曖昧な返事をした。
「もしかして、またあの依頼か」
「そのとおりです、風様」
「あの依頼って」
マクロスは訝った。
「これをご覧ください」
チェックメイトはそう言って、
カウンターの下から依頼書を出した。

スターダンスの石膏像を盗んでください
盗んでいただきたいものは
エウテルペ城下町の学者街
リッヒ・ミルバ教授の家にあるスターダンスの胸像
報酬をお支払いします
お願いします

そこには、依頼人の名が無かった。
「これを提出する人は、いつも布で顔を隠しています。依頼書だけ出して、すぐに帰って
いくのです」
チェックメイトが説明した後、
「そして何も言わずに、現金が入った封筒をこちらに渡すのです」
風が補足した。
「風さんは、この依頼を引き受けたんですか」
マクロスは訊いた。
「はい。四日前に、城下町の住宅街のある家に侵入してスターダンスの石膏像を盗みまし
た。犯行声明文も残しました。私が盗んだので、その家の人は警察に届けるわけにもいか
なかったのです」
風(盗賊協会)たちは、国に認められた盗賊である。
犯行声明文には、盗賊協会の名が印されている。
「盗むものが同じで、盗む場所だけが違うんですね」
マクロスは納得した。
「まだ不可解なことがあるんですよ」
チェックメイトが言った。
「風様が石膏像を盗んで依頼人に渡したその日の夜、その石膏像は粉々にされたんです」
「えっ」
マクロスは驚いた。
報酬を払って盗ませたものを壊すなんて、
どうかしている。
「依頼人は、スターダンスに恨みでもあるのか。でも、歴史上の人物だし」
「スターダンス教授の一家と、スターダンスは、何か関係があるんですか」
風が訊いた。
スターダンス教授とは、
エウテルペ城下町学者街に住む
エウテルペ大学工学部地質学教授である。
「詳しいことはよく知りませんが、遠い親戚だという説があるんです」
と、マクロスは答えた。
マクロスは、妙な依頼が気になってきた。
「この依頼は俺が引き受けます」
マクロスは決心した。
「この前、セブンもこれと同じ依頼を引き受けたんですよ」
マクロスは、風の言葉に唖然とした。
そのとき、セブンが協会に入ってきた。
「帰りました」
薄いピンクの髪の青年、
額には、横に三つの球体が埋め込まれている。
彼がセブン。
見た目は人間だが、実はロボットである。
球体は、左から始動、停止、節電ボタンになっている。
人間に近い感情を持ち、
ものを食べることができる。
風と同じく、ジスロフ帝国出身である。
「セブンさん、依頼を引き受けたのはいつですか」
マクロスは、気になった。
「風が盗んだ胸像が壊された次の日です」
「う~ん。そして今、セブンさんが依頼品を渡す前に、これが」
マクロスは、依頼書を見ながら言った。
「セブンさんと会う前に、こちらに提出されたみたいですね」
チェックメイトは、
事の経緯をセブンに説明した。
「そういうことでしたか。参考までに言いますと、私が侵入したのは商店街です」
セブンは言った。
住宅街に商店街に学者街。
ターゲットは英雄スターダンスの胸像。
依頼人の狙いが定まらない。
「セブンさんが盗んだのも壊されるんじゃないのか」
風は、予測した。
チェックメイトは、
依頼書にメモが付いていたのを思い出した。
マクロスも、依頼書の裏に
メモ用紙が貼ってあることに気がついた。
「この依頼は、取り消すかもしれない。明日までに、こちらからの連絡がなければ、正式
な依頼としてほしい」
風が、メモを読み上げた。
「チェックメイトさん、これは俺が引き受けます。依頼書は預けておきますね」
マクロスは言った。
「かしこまりました」
チェックメイトは了承してくれた。
マクロスは、
何かしらの興味を覚えていた。

2.依頼人の意図

依頼を引き受けることにしたマクロスは、
エウテルペ城へ帰り、
魔王にも怪しい依頼のことを話した。
翌日、
新聞に、こんなことが書かれていた。
「スターダンスの石膏像、壊される」
セブンのも、壊されたようだ。
食堂では、
マクロスと魔王の他にも
エウテルペ王国第二王子の
エボリ・ウイング・エウテルペもいた。
エボリは、藍色のうねった感じの髪に
澄んだ緑色の瞳が特徴的。
「エボリ君、今日の新聞を読んだか」
「はい、読みました」
マクロスは、思い切ってエボリにも
依頼のことを話してみようと思った。
エボリは、エウテルベ探偵団のリーダーだ。
何か情報をつかめるかもしれない。

マクロスは、
依頼が取り消されていないか
協会に寄ってみた。
「チェックメイトさん、依頼人がここに来ませんでしたか」
「来ましたよ。また新たな依頼を出しに来たんです」
「その依頼書、見せてもらえませんか」
「いいですよ」
チェックメイトは、
カウンターの下から
提出された依頼書を出してマクロスに見せた。
文面は、変わっていない。
ターゲットの家が変わっていた。
今度は、貴族街のギュスターヴ・アレイ氏の邸宅である。
「おい、マクロス」
突然声をかけられ、マクロスは驚いた。
「うわっ、なんだよ、プリンスか」
マクロスの盗賊仲間であるプリンスだった。
エメラルドグリーンの髪に水色の瞳。
風は、プリンスの付き人。
セブンは、プリンスの護衛ロボット。
「その封筒は何だ」
プリンスは、マクロスのポケットに手を入れ
封筒を取った。
中には現金が入っていた。
「これは報酬だよ。今朝、依頼人に品を渡したところだ」
マクロスは言った。
「チェックメイトさん、俺が引き受けた依頼は完了です」
「マクロス様、いつの間に・・・」
「へえ、いい仕事だな。俺もやりたかったな」
と、プリンスは言った。
「俺と同じ依頼が入ってるよ」
マクロスは、
プリンスにも依頼書を見せた。
「よし、これは俺が引き受ける」
プリンスは、すぐに決心した。
「本気ですか」
チェックメイトが訊いた。
「当たり前だ」
プリンスは強気に言った。
マクロスは、何か嫌な予感がした。
「何だよ。風もセブンもマクロスも関わって、俺だけ仲間はずれか。そんなのは嫌だ」
「かしこまりました、プリンス様」
チェックメイトは了承したものの、
どこか気が進まないという様子だった。
次の日、
プリンスは行動を開始した。
そして 無事にターゲットを盗むことができた。
翌朝、
マクロスがギルドへ向かう途中、
プリンスが盗みに入った
ギュスターヴ・アレイ氏の邸宅の周辺に
人だかりができていた。
マクロスは、人ごみをかき分けて
邸宅の前に進んだ。
その現場には、黄色い毛の兎人トリクーガがいた。
彼は、エウテルペ警察の警部である。
兎人とは、
人間のような身体の構造を持つ兎のこと。
かなり珍しい種族だ。
「トリクーガさん」
「あ、マクロス君」
「一体、何があったんですか」
「これを見てもらえばわかるよ」
トリクーガは、足元を指した。
そこには、男性の遺体があった。
まさか、プリンスが人殺しを・・・。
「トリクーガさん、死因は」
「外傷は、後頭部の傷と胸の刺し傷。刺殺だろう」
「わかりました。ありがとうございます」
マクロスは、トリクーガに礼を言うと
すぐに走り出した。

マクロスは、ギルドに着いた。
ギルドと協会は、
同じアマンダ城下町にある。
中に入ると、風が青ざめている。
マクロスには、風の表情から
何があったか想像がついた。
風は、震える声でマクロスに言った。
「若が、警察に連行されました」
「やっぱりか。容疑は、ギュスターヴ・アレイ氏の邸宅前で起こった殺人事件だな」
「若は無実を訴えています。私も、若が殺人を犯すとは思っていません。ですが私やセブ
ンの証言は、若をかばっているものとしか取ってもらえないんですよ」
風の言う若とは、プリンスのこと。
「マスターは、依頼にあった石膏像を盗んだだけ。人殺しまではやっていない」
セブンも言う。
「プリンスが依頼を遂行したのは昨夜ですね。帰ってきたのはいつですか」
マクロスは訊いた。
プリンスが帰えったのは、0時35分。
帰ってきたら依頼人が来ていて、
新たに依頼を出した。
文面は、同じで、
ターゲットは城下町郊外に住む
料理人・イカロス氏の家だった。
チェックメイトは、説明した。
「頼みたいことがあるんです。この依頼は、絶対に誰にも引き受けさせないようにしてく
ださい。まあ、こんな事態になったから誰も引き受けないと思いますが」
マクロスは、チェックメイトに頼んだ。
「かしこまりました」
「ありがとうございます」
「マクロス様、これからどうするんですか」
「決まっているじゃないですか。この依頼に隠された謎を解くんですよ。それとプリンス
の無実を証明するんです」
「私もお手伝いしますよ、マクロスさん」
「私もです。マスターをこんな目に遭わせた奴は、絶対に許せません」
マクロスは、風とセブンの気持ちがよくわかった。
なので、返事は決まっていた。
「ありがとうございます、風さん、セブンさん。絶対にこの謎を解きましょう」

その頃、
警察署で取調べられていたプリンスは、
警察上官のフィガロ・プラチナムの機転により
釈放された。
プリンスの、石膏像も壊されていた。
被害者の死亡推定時刻は、
0時50分から2時50分の間だという。
凶器は短剣だった。
プリンスのは長剣。
後頭部の傷は、
倒れたときにできたものだった。
プリンスが取調室から出て
警察署の出口に向かっていたとき、
彼は見慣れた人物を目撃した。
マクロス、風、セブンだった。
三人は、警察の上官である
ガニュメート・パステルと話していた。
紫の髪に濃い青の瞳をしていた。
「ガニュメートさん、被害者の身元はわかりますか」
マクロスが訊いた。
事件について、これまでわかったことを
ガニュメートに教えてもらっていた。
「それが、身元がわかるようなものを何一つ持っていないのよ。唯一手がかりになりそう
なのは、この写真ね」
ガニュメートはそう言うと、
被害者の持ち物の中にあった
1枚の写真を見せた。
写真に写っていたのは、
浅黒い、ひげ面の男だった。
爛々と輝く茶色の瞳が特徴的だ。
この瞳は、依頼人に似ている。
「ガニュメートさん、この写真、お借りできませんか」
マクロスは、だめもとで訊いてみた。
「いいわよ」
ガニュメートはあっさりと承諾した。
「それにしても、この事件、エボリが飛びつきそうね」
ガニュメートの言葉に、マクロスははっとした。
その表情に、風が気づいた。
「マクロスさん」
風は、マクロスに何か話すように促した。
「ガニュメートさん、被害者の身元が割れたらエボリ君に連絡してくれませんか」
「わかったわ。やっぱり、エボリにも協力してもらうのね」
「もちろんですよ」
マクロスは、ガニュメートの言葉にうなずいた。
「この事件は、何か不可解なことがあるんです」
マクロスは言った。
「若にこれ以上疑いがかからないように、真犯人も見つけます」
「頭の固い刑事に負けないようにね」
風とセブンも言った。
「そうね。トリクーガは信頼できるけど、取調べの担当が本当に頭の固い人でね。真犯人
が見つからなければ、何かと難癖をつけてプリンス君を捕まえにいくかもしれないわ」
ガニュメートは言った。
「そういえば、ここ数日、スターダンスの胸像が壊されているのよね。私たちは、胸像の
謎を追うわけにもいかないから、その件はそちらに任せます」
「さすがガニュメートさん。話がわかりますね」
「盗賊協会の人たちを信頼しているのよ。マクロス君、風さん、セブンさん、よろしく」
「こちらこそ」
マクロスたちは、
胸像の謎を追うことにしたのだった。
プリンスは、
マクロスたちを物陰から見ていた。
本当は声をかけたかったが・・・。
三人の行為が嬉しかった。
今回は疲れた。
少し休もうと思った。

マクロスたちは、エウテルペ城に向かった。
今回の事件のことを、エボリに話すためである。
「ところで、マクロスさん」
セブンが訊いた。
「私は、胸像の謎を追うって言ってしまいましたが、格好つけすぎましたか」
「いや、俺も胸像のことが気になったから、そうしようと思っていました」
マクロスは答えた。
「あの胸像を追っていれば、犯人に当たるかもしれませんね」
風が言った。
「はい。依頼人と殺人犯が同一人物だという確証はありません。プリンスから胸像を受け
取った後に殺人事件が起きています。死亡推定時刻は早くて0時50分。プリンスが帰っ
てきたのは0時35分だったんですよね」
「そうです、マクロスさん」
風が答える。
「その後、プリンスが部屋を出ることはなかった。どんなに急いでも、邸宅から部屋まで
20分かかる。プリンスが邸宅を後にしたのは0時15分。プリンスには不可能な犯行で
すね」
「そうですよ。それなのに、帰ってからまた出かけただとか、取調べの担当に言いがかり
をつけられたんですよ」
セブンは、怒りをあらわにした。
「依頼人が胸像を受け取った後、どうしてターゲットの邸宅に行ったのかですね」
風は、それが気になっていたようだ。
「う~ん、それは何とも言えませんが」
マクロスにも、それはわからない。
そうこうしているうちに、エウテルペ城に着いた。

マクロスたちは、
エボリの部屋に向かい、
胸像が壊されていた場所について
調べてほしいとエボリに頼んだ。
その後、
マクロスたちは教会図書館に向かった。
今回の事件のことを、魔王に告げた。
図書館を出てから、風がマクロスに訊いた。
「で、これからどうするんですか」
「そうですね。あの胸像が、どこの店で買われたのか。どこで作られたのか。それを調べ
ようと思います。何らかの共通点があるかもしれませんので」
マクロスは答えた。
「じゃあ、まずは学者街ですね」
三人は、学者街にある
リッヒ・ミルバ教授の家に向かった。
ミルバ教授の家には、その妻がいた。
話を聞いてみると、胸像は
商店街にあるインテリア専門店で買ったという。
三人はインテリア専門店に向かった。
インテリア専門店に着くと、
店の人に話を訊いてみた。
「私も驚いているんですよ。うちで売られていた胸像がみんな壊されるなんて」
「じゃあ、四つの胸像は、みんなこの店で」
「いいえ、うちで扱ったのは三つです」
マクロスの言葉に、店の人は反論した。
あの殺人事件のこと、
また胸像が壊されていたこと、
一般人にはまだ伝わっていないようだ。
「この人は知っていますか」
マクロスは、
ガニュメートから借りた写真を見せた。
「ああ、これはピルックさんですよ」
店の人は、この人物を知っていた。
「ご存知なんですか」
風が訊いた。
「なんでも、ヤハンの出身だそうです。しゃべり方にヤハンの訛りがありました。1ヶ月
ほど前までこの店で働いていたんですよ。手先が器用でこちらは大変重宝しました。先日
、この店を辞めました。その後はどうなったのかは知りません」
店の人は説明した。
ヤハンとは、
西にある大陸の国である。
「あの胸像は、どこから仕入れたんですか」
マクロスの問いに、店の人は答えた。
「この商店街の外れにある彫刻品の工房からですよ。2年くらい前から石膏の大量生産に
も手を付け出したそうです。スターダンスの石膏像はその工房から仕入れたんですよ」
「わかりました。ありがとうございました」
三人は礼を言って、店を後にした。
そして、彫刻品の工房に行った。
現在、石膏像の生産は行っていないという。
1年前に生産を打ち切ったそうだ。
マクロスは、工房の責任者に写真を見せた。
すると、責任者の表情は急変した。
「こ、こいつは」
「ご存知なんですか」
セブンが訊いた。
「知っているも何も、こいつのせいで、しばらくこの工房の評判が落ちたんですよ。こい
つは、この工房で働いていたんです。工房の前で暴力事件を起こして刑務所に入りました
。その事件のせいで、しばらくここの製品がどこにも売られなかったんですよ」
責任者の言葉には、怒りがこもっている。
「それはいつのことですか」
マクロスが訊いた。
「1年くらい前です」
責任者は答えた。
「今は出所しているということですね」
風は、確かめるように訊いた。
「そうです」
責任者はうなずいた。
「では、スターダンスの石膏像についてお聞きしたいんですが」
マクロスの言葉に、責任者はうなった。
「誰かがあの石膏像を狙っているという話ですよね。あのときに出荷した分が次々と壊さ
れるなんて」
「出荷した時期が同じなのですか」
セブンが訊いた。
「そうですよ。三つは商店街のインテリア専門店、あと三つが貴族街にある美術品専門店
に出荷されました」
『…。それを、貴族街在住のギュスターヴ・アレイ氏が買った…。
それが壊された…』
マクロスには、偶然とは思えなかった。
壊された胸像は、
この工房で作られていたのだ。
四つ目に壊されたのは、
貴族街の美術品専門店のものだ。
次の行き先は、美術品専門店。
この店は、貴族街にあるのだが
利用するのが貴族だけというわけではない。
一般庶民も、利用している。
三人は、店の人に石膏像のことを訊いた。
「工房から仕入れたあの胸像ですね。胸像を仕入れた次の日、工房の評判が落ちてしばら
くものが仕入れられなかったことを覚えています」
「じゃあ、石膏像を仕入れたのは、それが最後なんですか」
マクロスは訊いた。
「そうです。あの事件があってから、あの工房では、スターダンスの石膏像は作られなかったといいますから」
店の人は答えた。
「では、この人は知りませんか」
マクロスは、写真を見せた。
「いいえ、知りません」
店の人は即答した。
「では、この店にヤハン出身の人はいますか」
風が訊いた。
「ええ、一人います」
店の人は答えた。
「それでは、石膏像がどこに売られたかはわかりますか」
セブンが訊いた。
「ちょっとお待ちくださいね」
店の人は、カウンターの下から売上帳を取り出した。
そして、石膏像を売った顧客を調べた。
「ひとつは、ギュスターヴ・アレイ氏がお買い上げになりました。これは壊されたという
話ですね」
この店の人は、
四つ目が壊されていることを知っていた。
「残りの二つは、どれも郊外の方がお買い上げになりました。ひとつはイカロス氏が買っ
ています。もうひとつはルーミス氏が買っていますね」
店の人は説明した。
「その売上帳は、店の人なら誰でも見られるんですか」
風が訊いた。
「見ようと思えば見られます」
店の人は答えた。
「どうもありがとうございました」
三人は、礼を言って店を出た。

3.依頼人の目的

マクロス、風、セブンは、
聞き込みを終えて、ギルドに帰った。
エボリと加奈が来ていた。
加奈は、学校帰りに寄っていた。
額には、愛用のゴーグルがある。
エボリは、椅子に座っていた
「被害者の身元がわかったそうですよ」
エボリが、三人の姿を見つけるなり言った。
「こっちも、だいぶ進展したよ」
マクロスは、嬉しそうな口調で言った。
「ところで、若は」
風は、ギルドのロビーを見回して言った。
「そちらの部屋に顔を出しました。プリンスさんは、午前中の出来事で疲れたから休んで
いるということです」
加奈が答えた。
「マスターは釈放されたということですね。加奈さん、あの殺人事件のことを知っていま
すか」
セブンが訊いた。
「はい。チェックメイトさんから聞きました。エボリ君は胸像が壊された場所について調
べていたそうですが」
加奈の言葉を引き取るように、エボリが説明した。
「警察の話を頼りに調べていったんです。すると、人通りが少ない場所で街灯があるとこ
ろで壊されていることがわかりました。人通りが少ない場所で壊されるのはわかりますが
、なぜ街灯のあるところで壊されなければならなかったのか、それがちょっと気になりま
した」
「なるほど。街灯のある場所ね」
マクロスは、それが重要な点だと思った。
奴は何かを探しているんだ。
「エボリさん、被害者の身元がわかったそうですが」
風の言葉に、エボリははっとした。
「そうだった。被害者の名前は、ムール・レムリートです。この名前を聞いて何か引っか
かった。魔王さんがムール・レムリートについて教会図書館で調べてくれています」
エボリは説明した。
「ありがとう。じゃ、こっちの成果を話すよ」
マクロスは、今まで調べてきたことを話した。
「すると、スターダンスの胸像は同じ場所で作られ、売られたということですね」
加奈が訊いた。
「そういうこと。ピルックという人物が何かしら関係している。工房の近くで暴行事件を
起こし、インテリア専門店で働いてもいたし」
マクロスの説明に続き、セブンが言った。
「働いていたピルックは、スターダンスの石膏像がどこに売られたか調べたんだと思いま
す。だから、あんな依頼を出すことができたんですよ」
「なるほどね。お三方が手に入れた石膏像は、ピルックという人物が自ら調べてありかを
つかんだものですね」
エボリが言った。
「そう考えるのが妥当ですね。そして美術品専門店で売られた石膏像の行方は、そこで働
いているヤハン人に頼んで調べてもらった可能性が高いです。そのひとつが若が盗んだも
のですね」
風が説明した。
「あと二つは、依頼が取り消されたということはないそうです」
加奈が言った。
「加奈ちゃん、誰もあの依頼を引き受けていないよね」
マクロスが、確かめるように訊いた。
「ええ。誰も引き受けていません」
加奈は答えた。
「さて、依頼人はこの依頼を誰も引き受けないと知ったらどうするか」
マクロスの言葉に、エボリが反応した。
「おそらく、自分で盗みに入るんじゃないですか」
風が賛意を示した。
「すると、今度は郊外か」
セブンは、あの依頼書のことを思い出した。
次は、郊外に住む
イカロス氏が持つ石膏像がターゲットだ。
「郊外といえば、やっぱり、あの人に協力してもらうのがいちばんだな」
マクロスのこの言葉の意味を、
エボリも、加奈も、風も、セブンも、理解した。

その日の夜、11時。
イカロス氏の家の庭に、四つの人影があった。
「すみませんね、メフィストさん」
マクロスが言った。
「構わないよ。僕だって、あの事件は何か怪しいって思っていたんだ。それにプリンス君
の無実が証明できるなら喜んで協力するよ」
彼の隣にいた、エウテルペ城下町郊外監視係の
メフィスト・カカオマスが言った。
「ところで、石膏像を盗む奴が来るのはいつでしょう」
風が訊いた。
「人が来たら知らせますよ」
セブンには、生体反応をキャッチする能力がある。
ここに近づいてくる人物がいれば、すぐにわかる。
四人は、息を潜めて待った。
そして、日が変わる頃。
セブンは、生体反応をキャッチした。
彼は隣にいた風に、小声で言った。
「来ましたよ」
「わかりました」
風は、マクロスとメフィストに知らせた。
「で、どうします」
風の問いに、マクロスは小声で答えた。
「しばらく様子を見ましょう。あの石膏像をどうするか、それを見なければなりません」
「石膏像ならどうなってもいいって、イカロスさんは言っていました」
メフィストが補足する。
そうこうしているうちに、
不審人物は、イカロス氏の家の鍵を開錠した。
月明かりでわかったのだが、
そいつは、マクロスたちに依頼してきた
あの人物だった。
顔は、布で覆っている。
あいつ、ちゃんと盗賊の腕前もあるんだな。
だけど協会の人間じゃないから、
わざわざ盗賊を雇ったのか。
マクロスはそう思った。
しばらくして、不審人物は
スターダンスの石膏像を持って出てきた。
そして、
家の庭と道の境目にある街灯の下まで行くと、
それを割った!
ものすごい音が響き渡った。
そいつはその場にかがみ込むと、
石膏像の破片を調べ始めた。
「今だ」
マクロスは、手で合図した。
すると、セブンがその場から飛び出し
持っていた金の鎖を相手の足めがけて投げた。
不審人物は、それに気づいたが遅かった。
セブンの鎖は、足にしっかり絡み付いている。
さらに、メフィストと風が後に続いた。
メフィストはパイプ銃を敵のこめかみに当て、
風はマクロスソードの切っ先を向けた。
マクロスは、敵の覆面を剥ぎ取った。
ついにその顔が明らかになった。
「やっぱり、お前だったか」
それは、ピルックだった。
ピルックは、短剣を腰にあるさやに収めていた。
「ムール・レムリートを殺したのはあなたですね?」
風が訊いた。
ピルックは答えなかった。
「他人のものを盗んだ時点で、お前は警察送りだな」
マクロスは言った。
ピルックは、力なくうなだれた。
「メフィストさん」
家から、イカロス氏が出てきた。
「すみませんね、イカロスさん」
メフィストが謝った。
「構いません。また新しいものを買いますよ。犯人が捕まってよかったです」
イカロスは、気にしていないようだ。
「ところで、これからどうするんですか」
「こいつは、警察署に連れて行きますよ」
セブンが答えた。
メフィストが、縄でピルックを縛った。
マクロスは、壊された石膏像を調べていた。
ある確信を得た。
ピルックは、警察署まで連れて行かれた。
夜勤だったガニュメートに挨拶し、
事の次第を報告した。
「ありがとう、皆さん。ムール・レムリート殺害の件でもこの人を取り調べるわ」
ガニュメートは、四人に感謝の意を表した。
帰り道で
「ちょっと、相談したいことがあるんですが」
マクロスが口を開いた。
「メフィストさんには、これを頼みたいんですよ」
マクロスは、あることをメフィストに告げた。
「わかったよ、マクロス君」
メフィストは承知してくれた。
「風さんとセブンさんにも、ちょっと頼みたいことが」
「何ですか、マクロスさん」
「我々にできることなら、協力しますよ」
風もセブンも、聞く耳を持っているようだ。
「実は・・・」
風もセブンも受け入れてくれた。
「セブン、あの報酬はまだ手をつけていませんよね」
「はい。マクロスさんに協力するためなら喜んで出しますよ」
「ありがとうございます、風さん、セブンさん」

ギルドのロビーに戻ってきた一行。
マガニュメートはピルックについて話した。
ピルックがムール・レムリートを殺害した。
ピルックが持っていた短剣が、
胸にあった刺し傷と一致したからである。
ピルックも、殺害したことを自供した。
依頼した石膏像を受け取った帰り、それを壊した。
その後、ムール・レムリートと鉢合わせた。
その場所が、
ギュスターヴ・アレイ氏の邸宅の前だったのだ。
ムール・レムリートもヤハン人であり、
ヤハンのスパイだった。
一人の男性が、ギルドに入ってきた。
「こんにちは、メフィストさん」
「こんにちは、ルーミスさん」
それは、郊外在住のルーミス氏だった。
彼は、小脇に布でくるまれた何かを抱えていた。
「わざわざお越しいただき、ありがとうございます」
マクロスが頭を下げた。
「とんでもありません、マクロス王子。これは本気でございますか。貴下が所有している
ものが気に入りました。6万円で譲ってくださいとのことでしたが」
ルーミスは、包みをテーブルに置くと
懐から手紙を取り出してその内容を読んだ。
昨夜、マクロスがメフィストに頼んでおいた。
「はい」
マクロスは即答した。
「では、お確かめください」
ルーミスは、包みをほどいた。
そこには、スターダンスの石膏像があった。
「間違いありません。まさしく、この胸像です」
「お気に召しましたか」
「もちろんです。それでは、これが代金です。お確かめください」
マクロスはそう言うと、封筒をルーミスに渡した。
ルーミスは、その中身を確かめた。
「確かに、6万円あります」
ルーミスはうなずいた。
「ところで、よく私がこれを持っているとおわかりになりましたね」
「それは簡単なことですよ。製造元と販売店で調べましたので」
「そうですか。本当にいいのですか。これは2万円で買ったものですが」
「全く構いません。そうそう、お願いしたいことがあるのですが」
マクロスはそう言うと、とある書類を取り出した。
そこには、何か書かれている。
いちばん下に、書名欄がある。
「この胸像に関するあらゆる権利を、こちらにゆだねるという書類ですよ」
「ここに署名すればいいのですね」
「そうです」
「かしこまりました」
ルーミスは、書類に署名した。
「確かに。ありがとうございました」
「どういたしまして」
ルーミスは、ギルドを後にした。
マクロスは、
テーブルに石膏像を包んでいた布を広げ、
その中心に石膏像を置いた。
そして、プリンスに言った。
「プリンス、この石膏像はみんなを悩ませ、プリンスを苦しめたものだ。だから、お前が
割ってくれ」
「え、せっかく買い取ったのに」
「若、どうか割ってください」
風が口を出した。
「あの代金は、マクロスさんだけでなく、私と風も出したんですよ」
セブンが説明した。
「三人で2万円ずつ、合計6万円です」
「そうなのか」
プリンスは、剣の柄で石膏像を殴った!
派手な音を立て、石膏像は粉々になった。
マクロスが、素早く石膏像のかけらを調べた。
ひとつだけ、他のかけらと違うものを見つけた。
「あったぜ」
マクロスは、それを摘み上げた。
「幻の宝石、シルバームーン!」
そこにいた誰もが、目を見張った。
マクロスの手にあったのは、
直径5センチほどの宝石だった。
見事なカットが施されている。
銀色の輝きを放つこの宝石は、
ダイヤモンドよりもずっと希少なものである。
「まさか、それは」
エボリの声は震えていた。
「そうだよ。警察もエウテルペ探偵団も敗北した、あの事件の宝石だよ」
マクロスは言った。
「あの事件て」
プリンスが訊いた。
「1年ほど前に、城下町の美術館で宝石の展示会をやったの。そのときにシルバームーン
が盗まれたのよ!」
ガニュメートが説明した。
「あったわね、そんなことが。こちらにも捜査の手が伸びて、シルバームーンを盗む依頼
がなかったかどうか調べられました」
加奈が言った。
「俺たちも、この事件について相談された。俺は別の事件を担当していたから、運命兄さ
んが引き受けたんだけど結局見つからなかったんだよ」
エボリも言う。
「そういえば、その事件に関係したとされる人にアリス・レムリートっていう名前の女性
がいたよね」
メフィストの言葉に、風が反応した。
「すると、ムール・レムリートは、その人と血縁関係にあるということですか」
「その可能性が十分あります。被害者の身元が割り出せたときに思い出していれば」
ガニュメートは、後悔したように言った。
「俺は、魔王にムール・レムリートに関係がある事件を調べてもらいました。シルバーム
ーン盗難事件が出てきたというわけです。この事件は運命君が敗北した事件だったので、
俺もよく覚えていました。俺たちの調査が終わった後、一旦エウテルペ城に帰ったときに
魔王から知らされて、初めて気がついたんです。エボリ君に胸像が壊された場所を調べて
もらい、街灯の下で壊されたことがわかりました。胸像を壊した奴が何かを探していると
いうことです。一方、俺は風さんとセブンさんと一緒に、胸像について調べまわりました
。あの胸像は同じ場所で作られたこと、その場所で1年ほど前に暴行事件が起きていたこ
とがわかりました。暴行事件を起こしたのはピルックでした。ムール・レムリートがピル
ックの写真を持っていたことから、この二人は前々から知り合いだったと俺は考えました
。写真を持ち歩いていたのは、アリス・レムリートを捜し出すため。アリス・レムリート
は、シルバームーン強奪の指令を受けて盗んだ。このときに、アリス・レムリートはピル
ックにシルバームーンを渡したんでしょう。ピルックは暴行事件を起こしてし逃げるとき
に、シルバームーンをどうしようか考えた。身体検査をすればわかる。働いていた工房に
行き、石膏像の中にシルバームーンを埋め込んだ。ピルックは出所した後、シルバームー
ンを回収するため、インテリア専門店に潜り込み、石膏像の行方を突き止めた。盗賊を雇
い、石膏像を盗ませて中身を調べた。ムール・レムリートは、ピルックを始末しようとし
たんだと思う。逆に、ピルックに始末されてしまったんです。5つめの依頼は誰も引き受
けないようにした。自分で盗みに入ったピルックを捕まえました。俺は、念のために石膏
像のかけらを調べた。このときには何も見つかりませんでした。魔王から教えられていた
ので、奴が探しているのはシルバームーンだということはすでにわかっていました。シル
バームーンはどこにあるのか、もう見当はついていました。あの事件があったときに作ら
れたスターダンスの石膏像は6つ。うち5つが壊されて何も見つかっていない。とすると
、残りの1つにシルバームーンがあるということが簡単にわかります。メフィストさんに
頼んで、持ち主に手紙を渡してもらい、風さんとセブンさんには買取の資金を提供しても
らいました。警察も探偵団も敗北した事件が、ここで勝利に変わったというわけですよ」
マクロスが説明を締めくくると、
面々は、ほうっとため息をついた。
「ってことは、風とセブンはすでに結末がわかっていたということか」
プリンスが訊いた。
「そうですよ。マクロスさんが意味もなく資金の援助を頼むわけないじゃないですか」
風が答えた。
続いて、セブンが言った。
「シルバームーンは、ジスロフ帝国とその近辺でしか採れない珍しい宝石ですよ。我々の
故郷のものが絡むとなれば、協力しないわけにはいきませんよ」
「なんだか、本当にすごい事件でしたね」
加奈が言った。今回は参加できず、残念そうだ。
「ガニュメートさん、これをどうぞ」
マクロスは、
シルバームーンをガニュメートに渡した。
「有り難う・・・」
ガニュメートは、ためらいながら受け取った。
1年の時を経て、ひょんなことから
シルバームーン盗難事件は解決したのだった。

おわりに
ギルドの向かいにある中央公園のベンチに、
青年は腰を下ろした。
そこへ、小学生がやってきた。
「あ、おじさん」
小学生が青年に声をかけた。
「おい、おじさんじゃないって言ったろう」
「うん、怪盗MRDのおじさん」
「学校は終わったのか」
「今日は授業参観日だから午前中までだよ」
「そうか。お母さんは元気かい」
「うん。怪盗MRDに会ってみたいってさ」
「そうだ。これをお母さんにあげよう。石膏像をくれたお礼だ」
青年は、銀色に光る指輪を取り出した。
「どこで盗んだの」
「スターダンス家に伝わる石だよ」
「ありがとう」
「元気でな」
青年は、消え去った。

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